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夏のはじめ

毎日、特別楽しいこともない学校へ行く平凡な日常。「僕」はそれに飽き飽きしていた。 しかし、ここ最近楽しみなことが出来た。 『放課後の音楽室』だ。 夏が始まりかける少し前くらいから、多分3年生の男の人が毎日音楽室でピアノを弾いているのだ。 初めて「彼」のピアノを聴いた時、僕の全身に衝撃が駆け巡ったのを今でもはっきりと覚えている。 ✧ ✧ ✧ それはまるで「歌う」ように。 ピアノを「弾く」という概念を覆すような音色。 彼がその指先から紡ぎだす音は、まさに「ピアノが歌っている」、という表現がピッタリかもしれない。 彼のピアノには、「息」があり、「生き」ていた。 「貴方のピアノ、歌っているようですね。」 楽しげに歌っていたピアノが‘‘黙った’’。 「君は…面白いことを言うね。」 ふっ、と笑って彼は僕の肩に手をかけて 「ピアノは歌わないさ」 そう言ってその場を離れた。 不思議な雰囲気を纏っていた彼が弾いていた曲がふと気になってピアノの上に置いてある楽譜を手に取って見てみる。 「白紙の五線譜だけ…」 でも、たしかに歌っていたんだ。 歌ったのは『ピアノ』だった。 『彼』は、歌わない。

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