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第1話
「この世の最も醜いものにこそ、究極の美は付加し得る」
佳(けい)は何より逆説を好む。
高校も二年目の春、窓辺に凭(もた)れながら茫漠と、空の澄んだ青に心を奪われていた。
ふと、運動場を見やる。
純白の体操着を纏った集団が、体力測定を行っていた。一年生と思われる。
「初々しいな・・・」
佳はそんな常套句が脳裏に浮かんだが、そう思うことは常人のそれと大差なく滑稽なことであると思われたため、咄嗟に笑みがこぼれた。なんとも、ぎこちない。
運動場片隅に据えられたベンチへ目をやる。満開の桜はベンチを覆うように咲き乱れ、木陰を創り出していた。
そのベンチに、色白で長髪を拵(こしら)えた人間の姿があった。”人間”、というのも佳のいる2年2組は校舎3階、ベンチからは優に200mほど離れていたからだ。ここからでは性別確認のしようがない。
「女か・・・」
長髪・色白、極めて女子生徒である可能性が高かったのは推測の域を出(いで)ず確かだ。
しかし、推測は確信に変わった。
私立蓮田学院に於いては男子生徒、並びに女子生徒の体育授業を行う場所は計画的にずらさ
れている。
男子生徒が運動場ならば、女子生徒は体育館、その逆も然りである。
よって、佳から目視できる範囲にある男子生徒の確認を終えると、あの大開の桜の下に座っている人間は紛れもなく男子生徒である事を佳は知り、目を見開いた。
「美しいかな。俺のものにしてやりたい」
各段、女というものに興味が湧かず、生々しい男子連には寧ろ軽蔑の念を抱いていた青年は、消去法の論理を借りるなら中性的な人物へ好意のベクトルが向くこと自然である。
佳はどうにかして、あの男子生徒との接触を試みなければならなかった。
その試みこそ、佳にとっては、青春という短命な怪物を飼いならす唯一の手段に他ならなかった。
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