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1 タロとの暮らし

季節は巡り、冬が来た。 タロとの生活は順調だ。 タロを描いた絵は、賞を取ったり評論家の目に留まったりすることはないが、犬好きの人や飲食店などに飾りたいという人を中心に、少しずつだが着実に売れているらしい。 おかげで売り上げから天引きにしてもらっていた、元橋さんに前借りしていたお金も、無事に全額返せたので一安心だ。 最近では、タロの散歩の時に見かけた風景や、以前貧乏旅行をした時にスケッチしたり写真に撮ったりしていた風景を描き、その隅っこに黒柴と男の子の後ろ姿を入れる、ということをしている。 当然だが、これは犬のタロと人間のタロのつもりだ。 人間のタロとも一緒に散歩に行きたい、人間のタロでも犬のタロでもいいから一緒に旅行に行って、色んな風景を見せてやりたいという、俺の願望を絵に込めている。 人間のタロと出掛けるのは無理だが、犬のタロとはお金さえあれば一緒に旅行に行くことは出来るので、もう少しお金が貯まったら行こうと、日々仕事をがんばっている。 俺たちが住む家は、ありがたいことに夏涼しく冬暖かい。 隙間風が吹きそうな古い和風建築だし、日当たりも悪いので、冬は寒いだろうと覚悟していたのだが、意外にも暖かくて助かっている。 夜はタロと一緒に寝ているので暖房いらずだ。 庭では赤やピンクのさざんかの花が満開だ。 似たような木でまだつぼみなのは椿で、正直俺は花が咲くまで、その2つの区別が全くついていなかった。 庭には南天の木もあり、今の時期たくさん実をつけていて、それを目当てに色んな種類の鳥が来るので、資料用にこっそり写真や動画を撮っている。 庭には鳥の他に猫もやってくる。 とはいえ、ほとんどの猫が通り道にしているだけで、うちの庭で長い時間過ごしていくのは、以前も見かけたことがある茶トラの猫だけだ。 こちらはスマホのカメラを向けると、ものすごく嫌そうな顔をしたかと思うと、次の瞬間さっと逃げられてしまったので、それ以降、写真を撮るのは諦めている。 よく犬の姿のタロと話をしているかのように向かい合っているので、タロが人間になった時に「友達なのか?」と聞いてみると、「ノリさんは友達というより大先輩ですね。いつも色んなことを教えてもらってます」と言っていた。 ノリさんと言うらしいその猫は、確かに堂々としていて風格を感じられる姿の猫だったので、もしかしたらこのあたりのボスとかで、この界隈には詳しいのかもしれない。 そろそろ推定1才になるタロは、もうかなり成犬に近い体つきになってきた。 運動能力も上がっていて、子犬の時は俺が抱いてやっていた家の階段も、今では自力で上り下りが出来る。 タロは犬として成長しているだけでなく、人間に変身するための力もどんどん強くなっているようで、今では2、3日に1回、7、8時間程度変身出来るようになっている。 けれども力は強くなっても、人間の時の体の大きさは相変わらずの子供サイズのままだ。 その小さい体にエプロンをつけて、俺のために夕飯を作ってくれたり、後片付けをしてくれたりする姿がすごくほほえましく、またありがたい。 放っておくとタロは、夕飯の支度と片付けだけではなく、掃除や洗濯などの他の家事までしようとしてくれるので、俺はタロが犬でいる間にちゃんと家事をするようになった。 タロは「僕がやりますから」と言ってくれるのだが、タロにだけ家事をやらせるのは申し訳ないので、出来ることは自分でやっておきたい。 最近のタロは、夕方人間に変身して夜寝る時まで人間の姿でいるというのが、いつものパターンになっている。 人間でいる時間が増えたので、タロの服やパジャマを何枚か買い足して、パンツとズボンのお尻に尻尾を出す穴を開けた(ちなみに服の改造は、ほとんどタロが自分でやった)。 タロが人間に変身した時は、前回人間から犬に戻った時に着ていた服をそのまま着ているので、最近人間に変身する時はいつも夜寝た時のパジャマ姿だ。 まずそれを普通の洋服に着替えるところから、タロの人間の姿での時間が始まる。 その後夕飯を作ってくれて、それを一緒に食べた後、しばらく絵のモデルをしてもらったり、二人でのんびりとくつろいだりして夜の時間を過ごす。 驚いたことにタロは字も読めるので、俺が実家を出た時に母親に持たされた、初めて一人暮らしをする人向けの家事や料理の本を渡してやったら熱心に読んでいた。 最近ではタブレットの使い方を教えてやったので、ネットで料理のレシピを検索したり、俺が見本用にとタブレットに保存している俺が描いた絵の写真を見たりしている。 その真剣な顔をスケッチするのが、最近の俺の楽しみだ。 夜が更けると、二人で一緒に風呂に入ってから、二階に上がって一つの布団で寝る。 タロは寝る時は、犬の時と同じように、俺の腕枕で俺に背中をくっつけて寝る。 眠ると人間の姿を保っていられないらしく、タロは布団の中で犬に戻ってしまう。 風呂上がりのほかほかした子供の体温が、それよりももう少し暖かい、湯たんぽのような犬の体温に変わるその瞬間が好きで、俺はいつもタロが眠りに落ちるのを待ってから、ようやく自分も目を閉じるのだった。

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