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2 - side紗月 僕の幸せ
いつも通りの閑散とした店内を眺め、ため息をついた。
普段ならこの時間にはお客さんが一人いるのだけれど。忙しいのだろうか。
今日はもう来ないのかもしれない、と少し早いが店じまいをするために外に出る。
この小さく寂れた商店街の夕暮れ時は、帰路を急ぐ学生の姿がちらほら見えるほかに人の気配はない。
赤く染まった空を眼鏡のレンズ越しに見上げると『古書 ラヴァンド』と書かれた店の看板が目に入って、それを眺めた。
父親が始めた店なのだからまだたったの二代目。それなのに店は「明治初期からの老舗です。」とでも言いたげな風体だ、などと思いをはせる。肩下まで長く伸びた髪を冷たい風が揺らす。
「…あの!すみません!友達につかまってなかなか学校出られなくて!」
後ろから聞き慣れた低く暖かな声がして振りかえると、いつもの顔があった。
「黎くんこんにちは、おかえりなさい。」
店の扉を引き中に招き入れると、黎くんは口許を綻ばせながら小さく「ただいま。」と言った。年の瀬も迫った外を走ってきたのだろう、鼻は真っ赤だった。
「お茶入れたのでどうぞ。ご覧の通りお客さんもいないからゆっくりしてください。」
並んだ背表紙を眺める黎くんの背中に声をかければ、嬉しそうにカウンターの中へ入ってくる。
「紗月さんの入れてくれるジャスミンティー、優しい味で好きです。」
「それはよかった。」
ジャスミンティーを飲みながら学校の友人のことを楽しそうに話す黎くんに、思わず笑みがこぼれて目が細まる。
黎くんの笑顔を見ること、それが何気ない日常の中での自分の幸せなんだと実感した。
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