1 / 1
第1話
好きと言えた翌日は、いったいどんな顔をして会ったらいいんだろう……。
文化祭が終わって、いよいよ来週からは中間テストが始まる。俺、吉本蔵(よしもと くら)は昨日のキャンプファイヤーで奴に告白してOKをもらっていたのだった。同級生。しかもクラスメイトである志々島羅漢(ししじま らかん)に、炎の明かりが届くか届かないかの場所まで引きずっていって口にした。
『お前、今好きな奴とかいる?』
『女子?』
『ぇ、男子でいるの?』
『いる』
『ぇ……っと……。それ、誰だか聞いてもいい?』
『いいよ』
『……で、誰』
『お前』
『俺?』
『そう』
『俺?!』
『そう』
『何で?!』
『って言われても……』
『どこがっ?! どうしてっ?! いつからっ?!』
『……気が付いたら気になってた。お前こそ、好きな奴いるのかよ』
『ぇ……ぁ、まぁ』
『それって、もしかして俺?』
『えっ!』
『俺じゃね?』
『なっ…なんでっ?!』
『だって、こんなところまで呼び出して、そんなこと聞くって、脈アリアリじゃん?』
『そっ…れはそうだけど…………』
そこまで飛躍するとは思っていなかったので、どうしていいのか本当に困った。だけど相手はそんな蔵の気持ちが手に取るように分かるのか、抱き締めながら銅像の陰に隠れると唇を寄せてきたのだった。
『ぇっ?!』
『したいっ。今すぐにひとつになりたい気分だ』
『ちょっ! ちょっ! ちょっ!』
それは気が早いっ!!
どうやら蔵よりも羅漢のほうが乗り気で、服の上から尻を撫でられたりクチュクチュと淫猥な音が出るまで唇を重ねられた。
体系の大きさは同等ではない。明らかに相手のほうが大きいので翻弄されるのはこちらだ。ほとんど宙ぶらりんな状態で抱き締められての包容に告白。こちらが告白するはずだったのに、いつの間にか迫られてなし崩しに関係を持とうとしている。だけど蔵だって一応こちらから言おうとした本人であるからして、こんなことではいけないとグググッ! と相手の顔を手で遠のけて身を離す。
『聞けっ!』
『……何』
『ちゃんと聞け!』
『だから何』
『好きなのは俺。お前じゃなくて、俺なのっ!』
『…………でも俺もお前のこと好きだから。これでいいんじゃない?』
『ないっ!』
離せっ! とジタバタすると、ようやく脚が地に着く。
『お前っ! 覚えとけよっ!』
『何を? 好きな者同士が抱き合って愛を確かめ合う。これ、正論だよな?』
何が悪い? と首を大きく傾けられる。だけど自分としては、今日そこまで進展するつもりがなかったので動揺が収まらないのだ。
ドキドキが止まんねぇ!!
バクバクする胸に手をやってもう一度相手を見る。
『羅漢……。俺…………』
これ以上のこと想像してないっ……!
結ばれるとか結ばれないとか、そういうことじゃなくて蔵としてはイチャイチャしたいのだ。ただそれだけでいいのに、どうやら相手はそうではない様子。
困った……。俺、どうしたらいいのかな…………。
自分よりも一回りも大きな体系にちょっと垂れた瞳。笑うとそれがまだ垂れるから優しさが倍増して現れるのが好きだった。ヒョイと持ち上げられてしまうほどの体格差も今までそんなに気にしたことはなかったが、体の関係を持つと考えるとちょっとキツイものがあるのではないかと逃げ腰になる。
『蔵。俺、これ以上のことしたい』
『…………』
『蔵』
『ちょっと考えさせて』
『うん』
その場はそれで済んだ。どうにか済んだ。
蔵はそれから後のことをよく覚えていない。フラフラと家に帰ったんだと思う。これは自分の気持ちを無事に伝えられたから嬉しいと言うよりも、イチャイチャよりも先に進まなければならないと言う不安のほうが大きかったのかもしれない。家に帰って風呂に入って即寝た。そして翌日。また学校に行く時間が来たので家を出る。でも歩く速度は極めて遅かった。
「どうしよう……」
昨日の今日で嬉しいはずなのに嬉しさを感じられない。
「あいつのチン〇は絶対大きい。俺の中にそれを入れるのは無理っ!」
どうしたらいいんだろう……。
「チン〇入れるの無理っ! 無理っ! 無理っ!」
わーんっ! と泣き出したい気持ちでいっぱいになりながら学校へと着くと、待ち構えていたのは案の定羅漢だった。
「おはよう」
「……うん。おはよ」
下駄箱で待ち構えられていて返事をするしかない。相手は終始嬉しそうで蔵は終始不安そうだった。
「あのさ」と言われながら肩を抱かれると思わずギクッとしてしまう。それを即座に感じ取った羅漢がちょっと怪訝そうな顔をして覗き込んできた。
「お前、何」
「ぇ?」
「何、そのギクッっての」
「…………だって」
その先をここで言うのには抵抗がある。教室へ向かっていた脚をそのまま階段下へと移動させると羅漢を壁に押し付けて顔を突き合わせる。
「俺、お前のこと好きだけど、お前のチン〇入れるの無理だからっ!」
「は?」
「だから、俺、お前のチン〇入れられないってこと!」
「何で?」
「だって、デカイじゃん!」
「いやいやいやいや」
「じゃあ、ちっこいのかよっ!」
「そうは言わないけど……」
「だから無理だって!」
「…………お前のほうから告白してきたのに?」
「そりゃしたけどっ! 俺、そこまで想定してなかった!」
「……じゃあ、どこまで想定してたの?」
「…………俺…は……、お前とイチャイチャしたかったって言うか…………」
「イチャイチャ?」
「うん。俺、お前とイチャイチャしたい。ベッタリくっついたり、顔近づけて話したり、ちょっとキスしてみたり、ハグハグしてみたり……」
「ああ。そういうのがしたかったわけ?」
「うんっ!」
「…………だったら、そこからスタートしようか」
「……いいのっ?!」
「いいよ。蔵が望むなら、まずはそこからスタートしようか」
「うんっ!」
言われて気分がグッと軽くなった。蔵は羅漢に抱き着いて頬をスリスリして嬉しさを実感したのだった。
〇
「なあなあ、もうすぐテストじゃん? 一緒にテスト勉強しねぇ?」
「いいよ。じゃあ、帰りにお前ん家行くか?」
「うんっ!」
とにかく日にちがなかった。みんな文化祭まではそれに必死で取り組んでいたから、一週間後の試験勉強なんて眼中になかったと言ってもいい。もっともそう思っているのは蔵だけなのだが、そこはみんな同じとしておこう。
「地理っ! 今度の地理って世界地図上の山脈とか川とかの記入あるって聞いた!」
「ああ、それな」
「お前、もう覚えた?」
「覚えたってか……。何となく位置的な感覚で覚えてるって言うか……。代表的なものしか覚えてないな……」
「…………俺、その代表的なものさえ覚えないんですけど…………」
「マジか……」
「マジっす……。これからその代表的なものだけでも覚えたいんだけど、どうしたらいい?」
「どうしたらって…………」
それは簡単。覚えるしかないのだ。
学校が終わってからの一週間の間にそれを覚える。他の教科だって覚えなくちゃならないことはいっぱいで、繰り返し計算して覚えなくちゃいけない数学だってやらなくちゃいけないし、読解力か必然な国語だってやらなくちゃいけない。すべてに関して蔵は低位置に属していたために頼られた羅漢のほうが苦悩を強いられていた。
「覚える」
「って言われてもな……」
単にそう言われても、その方法が分からないから苦労しているのだと言いたげに蔵は相手を真正面から見つめた。
「とりあえず家に行こうぜ」
「ぁ、うん」
羅漢を家に迎え入れるのは今までだって何回もあったから気にしてなかった。家には誰もいなくて、自室に通してから冷蔵庫からジュースとお菓子を持って戻った。
「お菓子。それにジュース」
「ああ。小腹空いてたんだ。サンキュー」
「カップ麺とか食べる? 食べたかったらあるから言ってよ」
「ああ。………いい?」
「いいよ。腹が減ってちゃ何も始まらないからな」
「悪い」
そんなこんなでカップ麺で腹を満たしたふたりは、やっと本題に入ろうとしていた。
「試験は来週だろ?」
「ああ」
「一日三教科。どれからする?」
「一日目の苦手な教科からだな」
「……じゃあ、やっぱり地理か」
「小テストあっただろ?」
「うん」
「あれ、捨ててないだろうな」
「……とりあえず捨ててはいないけど……」
「点数はいいから出せ」
「うん…………」
言われて机の引き出しからテストの残骸を取り出して見せる。点数を見た羅漢が「酷いな」と一言言った。
「……。そう言われるから見せたくなかったのに……」
「悪い。でも地理なんて、おおよそ覚えるのが仕事。特に今回はある程度覚えてしまえば赤点は回避出来る」
「ほんと?!」
「ああ。だから今から覚えようぜ」
「うんっ!」
「それじゃあ……」と皺くちゃになった小テストを広げると一枚一枚並べられた。満点が十点。広げられたテストの点数は三点とか四点が主だった。
「酷いな」
「そう言われるから見せたくなかった」
「まあいい。これ、覚えるぞ」
「えっ、全部?!」
「とりあえず最初から。全部覚えるとか思わなくていいから。順番に覚えられるところまででいいんだ」
「そっか」
「そうそう」
そう言われると随分気が楽になる。
蔵は皺くちゃになった小テストを手のひらで広げると「えっと……」と紙面を見つめた。一枚目は世界の川、二枚目は世界の山脈、三枚目は世界の海流、四枚目は世界の湖だった。これを全部覚えるのはちょっと無理だよね……などと思っていると、後ろに回られて抱き締められた。
「えっ?」
「まず一枚目な」
「ぁ、うん……」
それはいいんだけど…………。
羅漢を気にした蔵だったが、相手は全然気にする素振りも見せずに小テストの紙面を見つめている。だから蔵も大袈裟に「やめろよっ!」とか言うのが憚られてしまったのだった。
「たぶん同じ感じで出ると思うんだ」
「うん……」
「だからそのまま覚えれば大丈夫だと思うんだけど、要はどれを覚えるかだと思う」
「…………羅漢はどれが出ると思う?」
「まあ一般的に知られてるようなもんだろうな。これとか……これ、とかな」
「ああ。有名だよね。俺も聞いたことあるもんっ」
「じゃあ、覚えような」
「うん」
「まずここ。中国な」
「うん」
「黄河。ちゃんと漢字覚えろよ。先生そこ見逃さないと思うぞ?」
「そっか……。黄河ね……黄河」
などと漢字を見ていると、抱き締めていた彼の手がサワサワと体を這い回った。
「ぇ……」
「黄河は……ここな」
「ぁんっ!」
右の乳首を探り当てられて黄河を漢字ごと覚えさせられる。
「なっ…何?」
「今度はこれな」
「ちょっ……」
「長江。これは左の乳な」
「んんっ!」
何でこんな風にするのか、うろたえている内に服の上から左の乳首を摘ままれてビクビクンッと体が反応する。
「そして次は……」
「やっ…やめろって……!」
「覚えたいんだろ?」
「それは、そう…だけどっ……!」
「だったら体で覚えるのが一番だって。赤点取らないための対策。俺の言うこと聞けって」
「だっ……て…………」
「抵抗ある?」
「抵抗ってか……ぁ……んんっ! んっ!」
「痛い?」
「痛いっ!」
「そう?」
「痛いって!」
「痛くないでしょ。ここをこうやって……」と言いながら服の中に手を入れられて直に乳首を摘ままれると、とっさに身を丸めてしまった。だけど逃げるに逃げられない。それに加えてこんなことをされてしまい「どうしよう……」と困りに困った。
現状は左の乳首だけでなくて、余ったほうの手で脇腹や尻を触られて「きゃーー!!」と叫びたい感じだった。
「やっ…や……やだったら………!」
「右の乳首は?」
「えっ?! ……ぁ…こ、黄河っ!」
「じゃあ左乳首は?」
「ぁ……っと……」
「ほら覚えてない。長江だよ。チョーコウ」
「んんっ! んっ!」
ギュギュッと左乳首を捻られて「長江」と言わせられる。
「ほら言って」
「ちょっ……長江っ!」
「よし。漢字、間違えんなよ」
「わ…かってるっ!! だからもぅ……」
「駄目。三つめは、っと……これ」
「ぇ…どれ?」
「イギリス。イギリスひとつだけだから嫌でも覚えられるだろ。テムズ川」
言うなり両方の乳首を摘ままれて「ひゃっ!」と声をあげてしまった。
「んだよ。今度は漢字覚えなくていいんだから。それに国でひとつだけだから大丈夫だろ?」
「じゃなくて……!」
「言ってみろ。イギリスはテムズ。テムズ川」
「てっ…テムズ川っ!」
「場所は?」
「イ…ギリスっ!」
キュギュギュッと両方の乳首を摘ままれて嫌でも返事をしないといけなくなる。右を弄くられて「黄河」と答え、左を弄くられて「長江」と答えるのを繰り返しされてから、もう一度両方の乳首を弄くられて「テムズ川」と言わされる。
「じゃあ…今度は…………。耳馴染みのいいの覚えとくか。これは?」
「わ…分かんないよっ!」
「セーヌ川だよ。セーヌ。おフランスの街中流れてる有名な川。聞いたことあるだろ?」
「ぅ…うんまぁ……」
でも実際に見たこともない川のことを言われてもどうもしっくり来ない。それを見透かすように羅漢が両手をウエストのくびれの部分にグッと押し当てて後ろから首元に唇を寄せてきた。
「セーヌだよ。セーヌ。お前のウエストはセーヌな?」
「ぅ…うん……!」
ウエストのくびれを撫でなれながら首元に置かれた唇から舌を這わされる。くびれた部分をしつこいほど撫でられて首元をベロベロと舐められるとどうしようもなく「セーヌ」と覚えさせられた。
そんなこんなで、他にチグリスユーフラテスやアマゾン、ミシシッピーを覚えさせられた蔵はもう体中どこもかしこも触られっぱなしの時間を過ごしてた。始めは乳首から覚えさせられたが、回が重なる毎にそれは下半身に移動していって、今は穴に指をズップリと入れられている。ちなみにこれはナイル川だ。
羅漢としては、少なくとも聞いたことのあるような名称はすべて蔵に覚えさせたいらしく、色々と知恵を駆使していた。最初は右乳首、次は左乳首。そして次は両方の乳首を嬲ってから、ウエストを攻めて腰を攻める。そして尻の穴に指を突き立てて中へと侵入する。そして最後は自らのモノを穿つのを目標としているのは、される側の蔵だって十分分かっていた。だから最初にイチャイチャしたいだけなんだ……と申し入れたと言うのに……。現状は蔵の思惑とは裏腹に、意図しない方向へ傾いていた。
「じゃ次は山脈か」
「待って! やだよ。もういいじゃん!」
「山脈全然覚えてない」
「だって。だって次は指の数増えるじゃん!」
「うん」
「で、緩くなったらお前自身が俺に入って来ようって算段だろっ?!」
「よく分かってるじゃん」
「やだっ! そんなのやだやだやだっ!」
「どうして?」
「俺、イチャイチャしたいだけって言ったじゃん!」
「でも成績の悪い子に来年はないんだぜ?」
「ぁ…………」
「来年も一緒の学年でいたいだろ?」
「そりゃ…そうだけど…………」
試読終わり
ともだちにシェアしよう!