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第167話

 藍と別れさせられた挙句、子供を産むなと言われたらどうしよう。従うつもりは毛頭ないが、目的の為に何をしてくるか計り知れない。 「……おい、永絆は身重なんだ。長距離の移動は負担になる。話があるならそっちから来いって伝えとけ」 「承知しました。お伝えします。では、これで失礼します」  去っていく足音が遠くに聞こえるまで二人は不安を紛らわす様に寄り添っていた。  藍の父親が話をする為だけにこんな所まで来るとは思えない。しかし、いつか話はしなければいけない。自分から連絡をしようと思っていた藍より先に父親からコンタクトがあった事に不満が募る。先手を打たれたのが気に食わない。 「藍……大丈夫?」  心配そうに顔を覗き込んでくる永絆の髪を撫でて額にキスをした。 「大丈夫だよ。永絆も心配しないでいいからな?」 「うん……」  けれど、不安は消しきれず、その日は出来るだけ側に寄り添って過ごした。互いの温もりを感じるだけで、少しだけ不安が消えた気がしていた。

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