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第2話
スマホを取りだし、手作りチョコと検索してみる。作り方はいくらでも載っていた。『簡単! 初心者でもできるめちゃうまチョコレートケーキ』というタイトルがついている。
チョコレートとか溶かして混ぜるぐらいだろ、と簡単に考えた。ケーキにしたって材料混ぜて焼くだけだろ、とか。さいわい自宅のレンジにはオーブン機能もある。トーストにしか使ったことないけれど。
「よし。作ってみよう」
それが甘すぎる考えだと、気づくのにさほど時間はかからなかった。
『ねね、ちょっと悪いけど、聞きたいことあって』
陽向は自宅マンションの狭い台所で、スマホのメッセージアプリを起動した。
『なに?』
桐島にメッセージを送ると、すぐにリアクションが返ってくる。彼女はいつも困ったときには心強い相談相手だった。
『ガナッシュケーキの作り方知りたくて』
『は?』
字面だけで桐島の驚いた顔が見えるような気がする。『いきなりどした?』と続けて返事がきた。
『いやちょっと、作ることになって』
既読後、しばし待たされる。
『なに? もらえるって誰かに見栄はっちゃった? あたし当日あげるよ? 義理だけど』
『いや、違います』
説明はいつかします、今はできないけどちょっと複雑な事情があって、と伝えると飲み込みのいい彼女はすぐ理解してくれた。
『いいよ。ガナッシュケーキなら作ったことあるし。何わからないの』
陽向はシンクについた小さな作業台に並べた卵や砂糖や小麦粉を見おろしつつ、文字を打ちこんだ。
『たまごしろ、てなんすか』
『たまごしろ?』
また沈黙。
『卵白のことか!』
『ああ、それ』
『そこから!』
すんません、初心者なもので、と返す。
『あとさ、うえしろとうってさ、これはなに』
『上白糖ですね』
『あ、そうすか』
『てか、レシピあんの?』
『あ、送る。これ作ろうかと思って』
陽向はさっき見つけた、投稿型料理サイトの簡単レシピのURLを送った。桐島はスマホに文章を打ち込むのが異様に早い。すぐに反応がくる。
『あー。これやめといたほうがいい。こういうのときどき地雷あるから。お菓子はプロのレシピ使いな』
『なんで料理サイトに地雷が埋まってるの……』
意味が分かりません。
『ちょっとまって、ほら、こっちの方がいいよ』
と、別のレシピを送ってくれる。そっちはプロのブログだった。
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