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告白 2
こんなふうに佳暁様に抱かれたい。
それが聡に抱かれた時、オレの頭の中に浮かんだ恐ろしい考えだった。
もし、佳暁様が男の人を抱くことも出来るタイプの人だったら、オレがそう考えても別に問題はなかっただろう。
けれども、佳暁様は完全に抱かれる側の人間で、以前抱く方も試したことがあるが駄目だったと聞いているから、オレの望みは決して叶えられない。
それならば、オレが抱いてしまった望みには目をつぶって、今まで通り佳暁様を抱く側でいればいいだけだとも思った。
けれども……無理なのだ。
初めて体験した抱かれる立場は驚くほどに気持ちよくて、それに相手が佳暁様でなく聡であったにもかかわらず精神的にも満たされるような気すらして、一度それを体験してしまった以上、今まで通り佳暁様のことを抱けるかどうか、正直自信がなくなってしまった。
たとえ佳暁様のことが抱けなくなっても、オレが佳暁様のことを好きなことに変わりはない。
それにたぶん佳暁様の方も、肉体的なつながりがなくてもオレのことを愛してはくださるだろう。
けれどもやはり、佳暁様にとってはオレたち三人との関係においてセックスがかなり重要であることは確かで、オレが佳暁様のことを抱けなくなったら今の関係がどうなるのか分からない。
「オレ、もう佳暁様のこと、抱けないかもしれません……。
申し訳ありません……」
もともと佳暁様のことを満足させられていたわけではないけれど、こんなことになってしまって本当に申し訳ないと思う。
佳暁様の顔もまともに見られる気がしなくて、オレはさっきからうつむいたままだ。
「それと……聡も、ごめん……」
聡はオレのことが好きだって言ってくれたのに、オレが抱かれている時に佳暁様に抱かれたいと思っていたと知って、いい気はしないだろう。
「いや、俺は……」
「聡、にやにやしてるんじゃない」
聡が言いかけた言葉に、佳暁様がそうかぶせてきたので、オレは思わず顔を上げた。
佳暁様の言う通り、聡は何が嬉しいのか、口元を緩ませていた。
「悪い。
昨日のあれが、お前が抱かれる立場に目覚めるきっかけになったかと思うと、嬉しくてな」
「え……」
オレには聡が何でそれが嬉しいと思うのかイマイチわからないが、そういうものなのだろうか。
もしかしたら、それが理解できないあたり、オレは最初から抱く方は向いていなかったのかもしれない。
「健太、謝らなければいけないのは僕の方だ」
「え……どうしてですか?」
唐突な佳暁様の言葉にオレは首をかしげる。
「前からもしかしたら健太は、抱くよりも抱かれる方が向いているのかもしれないと思うことがあったんだ。
けれども、それを健太に言ったら今の関係が壊れてしまうかもしれないと思ったら、怖くて言えなかったんだ。
ごめんね」
「い、いえ! 佳暁様が謝ることないです!
それにオレも、抱かれる方が好きなんだってわかった時に、佳暁様と同じこと考えてしまって、すごく怖かったから……」
佳暁様が前からオレのことに気付いていたというのも驚きだけど、今の関係が壊れるのが怖くて言えなかったというのも意外だった。
佳暁様はいつもオレたちの主人としてふさわしい堂々とした態度でいるので、佳暁様もそんなふうに怖がることがあるのだなんて思ってもみなかった。
佳暁様には申し訳ないけれど、佳暁様もオレと同じなんだと思うと、何となく嬉しくなってくる。
佳暁様の言葉で、オレの緊張が少し緩んだのが佳暁様にも伝わったのだろうか。
佳暁様は少し微笑んで、オレの両手を取った。
「けどね、健太。
もしかしたら、今の関係を壊さなくてもすむかもしれないよ。
今までは絶対無理だと思っていたけれど、今の健太を見ていると、たぶんお前のことを抱けるような気がする」
「えっ……、けど佳暁様、抱く方は駄目なんじゃ……」
「うん、そのはずだったんだけどね。
けど考えてみたら、前に試した時はその人に恋愛感情があったわけじゃないからね。
健太のことはその人と違って愛しているし、可愛いと思うし、お前が僕に抱いて欲しいと思うなら抱いてあげたいって、そう思えるんだ」
「佳暁様……。
それは、すごくうれしいですけど、でも、佳暁様に無理させるようなことは……」
佳暁様がそう思ってくれるのはうれしいけれど、正直、佳暁様に我慢をさせてまで抱いて欲しいとは思えない。
それに昨日抱かれる喜びを知ったばかりのオレでさえ、もう抱く側には戻れないと感じているのに、ずっと抱かれる側の佳暁様がオレを抱くことなど本当に出来るのだろうか。
「そうだね、確かに無理なのかもしれない。
けど、出来そうな気がするのも確かなんだよ。
正直、僕自身もどっちなのか、やってみなければわからないんだ。
だからね、健太。
もし、お前さえよければ、試させてくれないかな。
僕がお前のことを抱けるかどうか、そしてお前の方も僕に抱かれて、聡の時と同じように気持ちいいと思えるかどうかをね」
そう言って、佳暁様はオレの返事を待つようにオレのことをじっと見つめた。
その眼差しは真剣で、けれども佳暁様にしては珍しくどことなく不安そうでもある。
佳暁様がオレのためにそこまでするつもりになってくれたそのことだけでもう、十分すぎるくらいに嬉しくて幸せだ。
だからもう、オレの答えは決まっている。
「……はい、よろしくお願いします」
そう言うとオレは、しっかりと佳暁様の手を握り返した。
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