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第23話
昨夜の待ち伏せでは会えずじまいだったが、
翌日、あつしは通勤途中の倫太朗を捕まえた。
しかし、その顔に色濃く残ったアザを見て ――
「お前、そのカオ……」
「何でもない、ちょっとケンカしただけ」
倫太朗はあつしの制止を振り切るように
歩き出した。
顎の辺りが腫れているのは分かっている。
話しをするのに、口を開くのも辛い。
口の中が切れてるから、
昨夜は何も食べられなかったし。
今朝もカップスープを半分飲んだだけだ。
本当なら今日は休みたかった。
でも、子供のいじめられっ子じゃあるまいし、
大の大人がケンカしたくらいで休む訳にも
いかない。
きっと、病院でもさっきのあつしと同じような
視線を向けられ、あれやこれやいらん事まで
聞かれる。
それが嫌だった。
あぁ ―― 気が重い……。
昨夜、手酷く迫田にヤラれた。
後、数回……あと、もうちょっと、
そう思ってヤラせている。
でも、あんまりしつこくて途中で逃げようとしたら
顔面をグーで殴られた。
ハラが立って殴り返してやった。
ホテルの部屋がめちゃくちゃになる位、
暴れてケンカした。
だけど、腕力では到底あいつに敵わなくて。
まだ、素っ裸だったから外へ逃げる事も
出来なくて。
最後には力ずくでねじ伏せられ、散々ヤラれた。
抵抗する気力さえなくなるまでヤラれた。
これで終わりにしてくれと、最後には自分から
惨めに泣いて懇願した。
『―― 後ひと月、*月までだって約束したろ』
迫田は最後にそう言って、キスをした。
そう、何とか今をやり過ごせば ――
*月になれば、全て終わる。
そしたら、もう、しなくて済むんだ。
号待ちで立ち止まった倫太朗に、
あつしがやっと追いついた。
「倫っ! いい加減もう、虚勢は張るな。
お前はいつもそうやってヤセがまんで切り抜けようと
する。いい年こいて、心配ばっかさせんじゃねぇ
よっ」
「……」
「頼むからさ、倫……心配させんなよ……
何があったのか話してくれ」
あつしと利沙は、
他の連中がどんなに自分をハブいても
いつも味方でいてくれた……ずっと傍に
いてくれた。
一番大切な友達……。
だから、余計にそんな2人には心配かけたく
なかった。
「……た、頼んでない」
「あぁっ?!」
「頼んでないっ。心配なんて勝手にすんなっ!」
泣きそうになって、あつしを振り切り、
横断歩道を駆け出した。
「おい、倫、待てったら」
あつしの声が後ろでするから。
倫太朗は無我夢中で必死に突っ走った。
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