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第40話

  「―― 桐沢」 「あ、清水さん、さっきはどうもありがとう。  助かりました ――って、どうか、したんですか?」   デスクに戻る途中で呼び止められた倫太朗は、   そのままレントゲン技師の清水に廊下へ   引っ張られた。 「―― これ、キミが作成してたやつだよな?」   端の方でこっそり見せられたのは書類数枚だ。   雑巾を絞るようにしてねじってあったのだろう。   しわくちゃになっていた。         「あぁ! そう。コレです」   くしゃくしゃな書類に目を通した倫太朗は頷く。 「ところで ―― コレを何処で?」 「このフロアの喫煙室のゴミ箱に捨ててあった」 「そう、ですか……」   一昨日作成した書類をデスクの引き出しに入れて   帰宅したが、翌日の朝には紛失していたのだ。   保存したROMを持ち帰っていた為、再度作成し   送信には間に合ったのだが、倫太朗は呆れため息   しか出ない。 「こういう事は前からあった?」 「いえ、最近かな」 「あれか? 今度の派遣が決まって……」   ”緘口令”とは名ばかりで。   ”人の口に戸は立てられぬ”の例え通り。   例のプレスビテリアンへの派遣の事は音速で   院内へ広まった。   その結果が数々の嫌がらせとなって表れた。 「え、えぇ、おそらく……」   さらに声を潜める清水に、倫太朗は困ったよう   肩を竦めた。 「このこと他に知ってる奴は?」 「安倍さんがたぶん勘づいてると思います。  昨日もあったから……」 「昨日も?!」 「シッ。声が大きいです」 「キミも大変だな」   同情の言葉を吐いた清水が倫太朗の肩を叩いた。 「倫ちゃん?」    オフィスの戸口に、安倍が姿を見せる。 「ドクター・スミスから国際電話」 「はい、今行きます ―― あ、清水さん。この事は  オフレコで願います」 「了解」   清水を残して倫太朗はオフィスのデスクに戻って   電話に出た。 『はい、お待たせしました桐沢です ――』

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