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第53話
照明の落とされた薄暗い廊下で、
倫太朗はベンチに座らず壁に凭れて佇んでいた。
倫太朗は自分も柊二の手術に立会いをと望んだが、
『ここは我々に全てを託して欲しい』と
この救急病院のスタッフに言われ、
手術室前の待合所で待機していた。
公衆電話であつしらに連絡も入れた。
家族への連絡は利沙がしてくれる事になっている。
壁に掛かった時計を何度も見返す。
間もなく日付が変わろうとしている。
浮き立つ気持ちを無理に押さえ込み、
落ち着かせようと努力する。
柊二が生きていてくれさえすれば、それでいい。
倫太朗は必死に柊二の無事を祈った。
『倫っ』
バタバタっと足音がして名前を呼ばれた。
「あつし、利沙……」
心強い存在がにホッとする。
「―― 柊二の容態は?」
倫太朗は黙って『手術中』の赤ランプを見つめた。
「「……」」
「……治が刺したってマジかよ」
「あいつ、捕まったんじゃなかった?」
「……でも、待ち伏せてたんだ」
少し遅れて小走りにやって来た、匡煌と静流、
そして弁護士・岩沼に一同の視線が向く。
倫太朗は匡煌に向かって深々と頭を下げた。
「すみません、ボクのせいで柊二さんは……」
「事情はどうであれキミには怪我がなくて良かった。
今は手術の無事成功だけを祈ろう」
神妙な面持ちで黙りこむ一同。
岩沼が申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「……桐沢くん、取り込み中申し訳ないが、所轄署の
捜査官が早いうちキミにも事情を聞きたいと言って
きている。私と一緒に来てくれないか?」
「はい、もちろんです」
倫太朗は『手術中』の赤ランプをもう1度見やり
岩沼と共に立ち去って行く。
*** *** ***
結局、警察での事情聴取は繰り返し・繰り返し
同じ事ばかりをしつこく聞かれて、
いい加減クタクタになって、担当捜査官に殺意さえ
覚えそうになった頃やっと開放されて。
ハウスの部屋へ帰り着いたのは明け方近くだった。
シャワーを浴び、ベッドへ寝転がる。
ナイフの柄に指紋が残っていた事と、
迫田に前科がある事から彼の逮捕は
時間の問題だと刑事に言われた。
「あいつは、俺を殺そうとした……」
なのに、柊二が自分の身代わりになって……。
「バカだよ、こんな俺のために……しゅじぃ……」
警察からの帰りがけ、
柊二の手術は無事成功したと知らされ、
ホッとひと安心。
でも、刺さったナイフの刃先が僅かに内蔵まで
達していた為、しばらくICUへ入って術後の
経過も注意が必要だという、
出来れば自分がずっと傍に付き添って
いたかったが、
叶わぬ事だと分かっている。
白々と夜が明ける……。
肉体的にも精神的にもくたくたに疲れ切っている
ハズなのに、
頭は妙に冴えていて眠れない。
何度も寝返りを打つ。
眠る事を諦めた倫太朗は、
柊二に想いを馳せながら
出勤時間までを過ごした。
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