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君の髪が好きだ
2018/05/12参加
お大事
・手ぐし
・「似合う?」
・幸福の対価
制作時間37分
「おーちゃんは、俺の髪が好きって言ってたけど」
リヒトは鏡の前に立ち、手ぐしで手早く長い黒髪を整えている。
その後ろ姿を、『おーちゃん』と呼ばれた旺介はじっと眺めていた。
「何がいいの、女でもないのに」
鏡ごしに目が合い、旺介は少し頬を染めて目を逸らした。
「ん、女でもない、けど、綺麗な黒髪だね」
再びリヒトに目をやると、器用に頭頂部でお団子を作っていた。
「似合う?」
旺介は思わず吹き出した。
「何やってんだよ」
笑いながらリヒトの背後に近寄る。リヒトも笑いながらヘアゴムをはずした。
「この感触も好きだし、汗ばんだ体に髪がはりつくのもエロい感じがするし、その、…口でしてくれる時、に、さ。耳に髪かけるの、あれ興奮する」
また自由になった黒髪たちをさらさらと撫でながら、旺介は恥ずかしそうに告白した。
旺介は恋愛や性に関しては淡白な方なのだと、リヒトは思っていたが。
「おーちゃんて、案外ムッツリっていうか変態ちっくなんだな」
皮肉った言葉とは裏腹に愛おしげに微笑い、スマホを手にする。
どこかへ発信したかと思うと、
「明日のカットの予約、キャンセルしたいんですけど」
通話終了をタップしたのを確認し、旺介は口を開く。
「切るつもり、だったんだ…?」
「んー、暑いしな、とか思っただけで、別にどっちでも良かったから」
「俺がくだらないこと言ったから…ごめん」
すっかりしょげかえってしまった旺介を見ていたらたまらなくなって、リヒトは旺介を抱きしめた。
「おーちゃんに愛されてる幸福の対価だと思えば、どうってことねーよ。…あーもう、好き」
言い終えるや否や、噛みつくようなキス。
それが終わると、旺介もリヒトの首に腕を絡ませた。
「俺も。大好きだよ」
今在るこの幸福の対価を払えと言われたら、確かに何だって差し出せる気がする。
旺介はそんなことを思いながら、何度も何度も唇を合わせた。
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