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第8話
山瀬が社用車できていたので、征治がハンドルを握り山瀬は助手席に座る。普通、秘書と社長なら、後部座席に座るべきだと思うのだが、山瀬は「この方が話しやすいじゃないか」と、こだわりはないらしい。
「なあ征治、お前秦野さんとは初対面か?」
「ええ、そうですけど?」
「そうか・・・じゃあ思い違いかな。なんかお前が登場した途端、グラスはひっくり返すわ、急に帰っちゃうわでさ」
「単なるコミュ障かと思いましたが、それまでは上手くやり取りできてたんですか?」
「うん。お互い時間より早く着いてお前が来るまで30分以上話していたんじゃないかな。篠田さんが穏やかで礼儀正しいと言っていたけど、そんな感じだったよ。
ところで、あの文字による会話、面白いよな。聾唖の人達ではよく使うものなのかと思って聞いてみたが、それはよく知らないが友人がシステムを作ってくれたと言っていた。
音声による出力もかつて試してみたらしいが、発音が滑らかじゃなくて却って相手や周りの人に変な風にみられるから、文字だけでやり取りすることにしているそうだ。よく使う定型文は200程登録済みで、かなり普通の会話に近いスピードでやり取りできたぞ。
あれ、簡単にうちでも作れるよな?うちの社員の川俣みたいに普段から風邪ひく度に声が出なくなるやつ、あれがあると便利だよな。もちろんスマホで対応できるし、今なら滑らかな音声出力も出来るだろうし」
「なるほど」
「それにしてもイケメンだったな。なんつーか、美人?キレイ?征治が引きこもりじゃないかなんて言ってたから、もっさりした眼鏡のオタクを勝手に想像しちゃってて、登場したのがあれだからびっくりしたわ。それに、何か運動してるよな。体締まってたし」
「よく見てますね。後天的に声を失うって病気か何かですかね?わりと最近、有名な歌手が咽頭がんか何かで声を失ってましたよね」
「そうかもしれないな。綿のタートルネックを着ていただろ?もしかしたら手術跡でも隠しているかもしれない。でもそれより、彼は何か胸の奥に抱え込んでるものがありそうだな」
その時、征治の脳裏に何かチカッと感じるものがあったが、山瀬に話しかけられ気がそれた。
「征治、今夜、飯に付き合えよ。スケジュールきついか?」
本当は昨夜のうちに東京に戻っているはずだったので、午前の仕事が丸々手つかずの状態だがわざわざ山瀬がこういうのだ。何か話があるのかもしれない。
「8時過ぎるかもしれませんがいいですか?それまでに何とか形をつけますので」
「OK,それでいいよ。福ちゃんでいいか?」
征治が頷いた時、車がユニコルノが入っているビルの地下駐車場に着いた。
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