1 / 1

男同士の可愛いラブラブなストーリー

「やだ、チーちゃんじゃない。久しぶりねー。やっぱり可愛いわ、あんた。お鼻の上にホコリついてますよー。ダメですよー。ちゃんと綺麗、綺麗にしないとー。」 聞き覚えのある甲高い声。俺、いつの間にか寝ちゃってたみたい。 「雄真?」 「起きた?」 「お前誰と喋ってんの?」 「クマさん。礼士って意外と物持ちいいのね。これ僕があげたのでしょう?大昔よね。」 「なに?そのチーちゃん、って?」 「僕が誕生日にあげて、ふたりで名前つけたでしょう?小学生の時。」 「なんでそんなこと覚えてんの?って言うか、それよりお前どうやってセコムくぐって入って来れたの?」 「石山さん。」 石山さんは俺達の子供の頃からずっと家にいてくれる、お手伝いのおばさん。おばさん、って言っても俺の母親よりは若い。 「お前のそのメイクとドレスでよく家の中に入れてもらえたな。」 「全然平気だったわよ。雄真ちゃん、久し振りー!とか言われた。」 「お前のなりもどんどんエスカレートするな。」 「職業柄ね。」 雄真はなんだかよく知らないけど、女装したホステスがいるバーで働いてる。なんて呼ぶのそういうバー?知らないけど。結構大きめの所で、ショータイムなんかもあるらしい。 「お前これから仕事なの?」 「ううん。今日は休みにしてもらった。」 「なんで?」 「だって礼士が寂しい、って言うから。」 「そんなこと言ってないだろ?俺は病気。でも家に誰もいない、ってラインしただけだろ?」 「それって、寂しいってことじゃない?」 そうかもしれない。でもそれ認めるのも恥ずかしかったから、話題を変えようとしたら、あっちが、 「なんで礼ちゃん、こんな部屋に布団で寝てんの?」 「大学の側に引っ越して、すぐ俺の部屋を姉さんに盗られた。」 「ふーん。畳にお布団。淫靡な響き。みんなが帰って来る前に、セックスしちゃおうよ。」 雄真は俺の寝てる布団に入って来る。 「悪いけど俺、ウツ病だから。」 「だから?」 「性欲ないし。」 「じゃあ、キスだけ。」 俺達、キスしながら、どうも習慣だからやっぱり俺は、雄真の身体に触りだす。 「お前、ほんとにパンストまで穿いてんだな。」 俺はドレスの中に手を入れて、下着に触って、布団の中だから色とかは確認できないけど、なんだかツルツルしたエッチっぱいヤツ。下着の上から触ったら、ちゃんとついてるべきモノはついている。 「変な所に触んないで。ヤりたくなっちゃう。」 「お前、なにしてもいいけど、チンチンはちゃんとつけとけよ。」 「うん。大丈夫。そんなもったいないことしないわよ。」 そしてまた俺達、ロマンティックにキスして、その時は俺が寝てて、雄真が俺に覆いかぶさるみたいにしてて、 「お前、化粧上手くなったな。もうあんまり男だってバレないだろう?」 「明るい所だとダメだけど。電車とかに乗るのヤダ。」 「香水。今つけてるのなに?」 「ジョルジオ・アルマーニ」 「中性的。」 「サッパリした香りでしょ?」 「お前まだ香水屋の仕事もしてんの?」 雄真はもともとメイクアップアーティスト志望で、デパートのメイク用品とフレグランスの中間みたいな所で働いていた。 「うん。まだやってる。」 「まだあの銀座の?」 「そう。同じとこ。」 「いつもそんなカッコで働いてんの?」 「男性のユニフォームはスーツだから。」 「スーツ着てその顔もそそるな。」 「そんなこといつも言わない癖に。」 「そうか?」 「僕、礼士が僕のどういうとこが好きなのか分からない。」 俺は今度こそ、話題を変えようとする。 「ドクターに入院させるって脅されて、死んでもイヤだ、って言ったら、じゃあ家族と一緒にいる、って約束するならいいって言われて。」 「礼ちゃん、そんなに悪いの?僕、心配。」 「ここにいれば、家族は多分なにもしてくれないけど、少なくとも石山さんが面倒見てくれるから。」 「家族の人はどうなの?」 「知ってんだろ?母親と姉ふたりはああだし、父親もああだし。」 「うん。みんな自分のことで忙しいのよね。そういえば、このドレス、礼士のパパに買ってもらったのよ。」 「ええ!なにをどうしたらそんなことになるの?」 「いつか遊びに来た時、パパに名刺渡して、よろしくお願いします、って言ったら、接待でお客さん連れて来てくれて、それから何回か来てくれて、こないだ同伴出勤してくれて、このドレス買ってもらったの。」 「へー、すごい話しだな。俺、でも・・・」 「なによ、もったいぶって。」 「雄真は化粧はちょっとで、綺麗な色のスーツ、黒とか紺とか茶とかじゃなくて、そういうのいいな。」 「じゃあ今度それでデートしよう。礼ちゃん早く元気になって。」 雄真を抱き寄せると、胸元からまた、アルマーニの香水が香る。 「雄真、チンチン切ったり、胸入れたくなったら、やる前に俺に相談しろ。」 「相談したらどうなるの?」 「絶対ダメ、って言うから。」 「周りにそういう子がいっぱいいるから。顔も整形してたり。」 「お前はもともと目は大きいし女顔で、可愛いし。」 「ありがと。」 俺達は幼なじみで、家は歩いて5分、走って30秒。雄真はどちらかというと、俺と遊ぶより、俺の姉達とお人形ごっこをしたり、姉の服を着せられて、メイクされて、玩具にされていた。今は俺には大学があるし、雄真には仕事がある。そんなにゆっくり会えない。 「雄真、今夜はゆっくりしていかれるんだろ?」 「うん。」 「少しよくなったら、一緒にドライブに行こう。」 「え!礼ちゃん、車買ったの?」 「こないだ父が、お前ももう大学生だからって。」 「いいな、金持ち。」 「いいことばっかりでもないぞ。」 「そうなの?なんで?」 「俺が昔、ちょっと好きだったかもしれない同級生に、父親が接待と称してドレスを買ってやってる。」 「いやなの?」 「君の商売の邪魔をする気はない。」 「昔、ちょっと好きだったかもしれない同級生、ってどういうこと?今はどうなの?」 俺はその疑問に対する答えをこれから考えようと思ってたら、俺の寝ている部屋にヘッドライトの眩しい光が。そして玄関のドアが開いて、母と姉達のかしましい声が響いてくる。 「あ、お姉様達、帰っていらしたわね。ご挨拶しないと。」 階下に行くまでもなく、みんなは着替えるためにバタバタ2階に上がって来る。俺の寝てる和室のドアを開けると、すぐ廊下になってて、雄真はみんなに声をかける。 「お母様!麗花様!唯花様!」 みんなが口々に、 「まあ、雄ちゃん!ますます可愛らしくなって。」 「麗花様、どうもありがとう。」 「あら、雄ちゃん、可愛いドレスね!」 「ありがとう、唯花様。えへへ、お客さんに買ってもらったの。」 「雄ちゃん、なんでここにいるの?」 「礼ちゃんのお見舞い。」 「あれ、礼士帰ってんの?」 「お母様、そんなこともご存知ないんですか?」 「そんなことより、雄ちゃん、今日、家庭用カラオケセットを買ったのよ。」 「えー、マジ!僕とかも歌っちゃっていいんですかあ?」 「もちろんよ!一緒に歌いましょう。」 「ヤッター!」 大音響のカラオケが響いている間、俺は俺の暗かった人生をかえりみていた。幼稚園に入る頃から冷笑的で、厭世的で、幼稚園にも興味を感じず、入園3日目でギブアップした。なだめすかされてなんとか幼稚園を卒業し、小学校を卒業し、なんだかんだで今に至る。ウツ病だって診断されたのは中学の時だけど、考えてみたら、小児の時からずっとウツだった気がする。顔も性格も地味で、男ひとりなのに家族に興味を持ってもらえず。和室の戸がゆっくり開いて、石山さんが顔を覗かす。 「礼士さん、お風呂入って来てください。全く、カラオケうるさくて、なんにも聞こえない!」 「俺、そんな気分でもない。」 「ここにいるより、お風呂の中の方が静かですよ。ゆっくり入って来てください。」 リビングの前を通り過ぎると、音だけじゃなくてイルミネーションも凝っている。暗い部屋の中にカラフルなライトが回っている。俺はついうっかり部屋の中をのぞく。雄真が持ってるマイクで俺に向かって叫ぶ。 「礼ちゃーん!僕と一緒に歌いましょー!」 みんなお酒も相当入っている。俺はニコリともせずに通り過ぎ、お風呂に行く。 なるほど、ここの方がずっと静かだ。俺は湯船に浸かりながら、なぜか父親のことを考える。俺の高校の同級生だった女が、ホステスになって、父はそこにも通ってるらしい。だからそれは雄真だけじゃない。きっと父は俺の同級生の働いてるバーに通うのが好きなのかもしれない。なぜなのかは見当つかないけど。俺の同級生の売り上げに貢献したいから?近所だし共通の話題があるから?別にどうでもいいけど。こんなにうるさいのを我慢しても、やっぱり病院にぶち込まれるよりはいいな。俺は色んなウツになるんだけど、今回のは、急に現実感がなくなって、手元にある薬を全部丼に出して、混ぜ合わせて、ざっと数を数えたら多分死ねるくらいあって、その次の日が病院の予約の日で、俺は変に律義なところがあるから、ちゃんとその時間に行って、現実感ないしどうでもいいやと思って、丼の薬の話しをしたら、入院しろって言われて、あんな辛気臭い所は耐えられないと言ったら、実家で静養しろって言われた。風呂にゆっくり浸かって、ゆっくり頭を洗って、ゆっくり身体を洗って、部屋に戻ろうとしたら、丁度帰って来た父親と出会った。 「おう、帰ってたのか?」 「具合が悪くて。」 「おみやげ買って来たから一緒に食べよう。」 見ると父は手に寿司屋の袋を下げている。俺達がキッチンの方へ向かおうとすると当然、リビングの前を通ることになり、みんなに寿司を奪い取られる。雄真のバカが、 「パパ、お帰りなさい!」 「おう、雄ちゃん、来てたのか?ドレス可愛いな。」 「ありがとう、パパ!僕と一緒に歌いましょー!」 すっかりでき上っている。俺は石山さんに呼ばれて、キッチンへ。 「お夜食用意したから、薬飲む前に食べて。」 小さいおにぎりが3つ。中身はみんな違ってて、俺の好きなのばかり。食べてると父の歌声が。石山さんは、笑い出して、 「ほんとにみんな、賑やかで。」 「どうせすぐ飽きると思うんだけど。」 「私もそう思う。」 部屋に帰って横になる。信じられないくらいの喧騒だけど、今時の流行歌を聴いていると、バカバカしくて、ウツになってる場合じゃない気がして、ウツに効くような気がする。やっぱり雄真が一番うるさい。この部屋までしっかり聞こえて来る。 「パパ!ママ!麗花様!唯花様!僕楽しいですー!」 バカか、あの女、って男か。水商売は向いてそうだな。俺はアイツの店行ったことないけど。デパートの方は何回か行った。客や従業員に可愛いと言われて、いい気になってるみたいだった。しかしアイツがここに来たのは俺の見舞いじゃなかったのか?今回のウツは身体にくるな。だるくてたまらない。そんなことをつらつら考えているうちに、さすがにカラオケもお開きになって、ようやく眠れて、そしたら寝てる俺の隣に誰かが入って来て、俺が飛び上がると、 「礼ちゃん、ゴメン。僕、僕。」 「なにしてんの?」 「みんなが泊っていけって言うから。」 「お前ん家、こっから5分だろ?」 「お風呂までいただいちゃった。」 「え?」 俺は電気をつける。雄真は姉のどっちかのネグリジェを借りて着ている。でも化粧は落とした後だから、なんだかそのネグリジェと素顔のギャップで、ウツのくせに燃え上がって、一発ヤってしまった。 次の朝。 「もう、僕、礼ちゃんのことが理解できない。礼ちゃんは男の子の僕と、女の子の僕のどっちが好きなの?」 「知らない。」 家の連中はみんな出かけて、石山さんも今日は休みで、雄真はそのまま家にいて。なんだかまた姉の服を借りて着ている。ズルズル長い花柄のワンピース。似合うけど。 「麗花様も、唯花様も高いお洋服たくさん持ってらっしゃるから。これね、いただいたの。」 「よかったな、ってそれより、なんでお前昔から俺の姉に様つけんの?」 「あれはね、よく3人で少女漫画ごっこをしてて。」 「少女漫画にそういうのあるんだ。」 「そう、それはね、女子高のソロリティの話しで、先輩のことを様つけて呼ぶの。」 「分からん世界だな。」 「そんなことより、夕べパパが・・・」 「お前がパパっていうと奇妙だな。」 「それで夕べパパが、もし雄ちゃんがほんとに女の子だったら、礼士の嫁にもらってやるのに、って。」 「マジで?酔払ってたんだろう?」 「でもね、マジっぽかった。僕、性転換する?」 「ダメだって。」 「なんで?」 「女と付き合うつもりはない。」 「そうそう、そもそも僕達って、付き合ってんの?長い間、疑問だったけど。」 「そうなんじゃないの?」 「でも僕、付き合ってって言われた覚えないし。」 「俺も言った覚えないし。」 「どうしたいの?」 「じゃあ、付き合って。」 「それだけ?」 「うん。」 「まあ、いいや。朝ご飯、なに食べたい?」 「ほら、そうやって。」 「なに?」 「お前が曖昧にすると、あとからなんだかんだになるんだ。」 「だからなに?」 「今、俺が付き合って、って言っただろ?」 「うん。」 「付き合うの?付き合わないの?」 「それは、ちょっと考えさせてもらいます。」 「なんだそれ?」 「だって僕、礼ちゃんが複雑で理解できない。」 「複雑なのはお前だろう?」 「じゃあ夕べはなんでいきなりああなったの?」 「あれはな、あんなピンクのネグリジェ着てて、素顔だったから。」 「じゃあ礼ちゃんは、僕が女の子のカッコで、顔が男の子だったらいいんだ。」 「そうなんだ。俺も知らなかったけど。」 「夕べ言ってたじゃない。僕が化粧はちょっとでスーツ着ているのがいいって。」 「それいいな。」 「ネグリジェもいいんだ。」 「だから、ちょっと化粧でスーツ、それかスッピンでネグリジェ。ギャップがいいんだ。」 「あんまりメイクするのはイヤなの?」 「場合による。」 「礼ちゃん難しい。」 「お前のことは、なにしてても好きだから。」 そしたら雄真は黙って冷蔵庫を開けて、ある物で手際よく料理して、食卓に並べて、それは目玉焼きとベーコンと、そこらにあった残り物。食べながらもずっと静かで、食べてからお茶碗も洗ってくれて、それでも黙ってるから、さすがに俺も笑って、 「なんで静かなの?」 「だって。」 「だって、なに?」 「だって、今まで礼ちゃんに好きって言われたことなかった。」 「俺も、言った覚えないし。」 「僕のこと子供の時から知ってたくせに。」 「そうなると、余計言いにくくなるんだ。また、そこのとこ曖昧にしないで。」 「うん。じゃあ僕も礼ちゃんのこと、好き。」 「よかった。」 「でもなんで今なの?」 「君が、昨日・・・」 「子供の時から、お前、なのに急に僕、君に昇格したの?なんで?そういうことって起こるもんなの?」 「だから君が昨日、仕事を休んでお見舞いに来てくれて。俺の家族は全然気にしてないで、一晩中カラオケで。」 「あ、それは僕も。」 「そうだった。でも、そもそもはお見舞いに来てくれたんだろう?」 「寂しいって言うから。」 「だから言ってない、って。」 「でもそう言ってるって思ったから。」 「ありがとう。君が一緒にいてくれると、気分がよくなる。」 「ゴメンね。夕べ、酔払って騒ぎ過ぎ。」 「それはいいんだけど。それからもうひとつ、今だから言うけど・・・」 「なんのこと?」 「今、好きだって言いたい理由。」 「うん。」 「君が急に綺麗になっちゃって。ちゃんと側につなぎ止めておきたくなった。」 「礼ちゃん。」 雄真がなんかしんみりしちゃったのは、俺の言葉のせいだと思ったら、 「礼ちゃん、僕、誰かに付き合って欲しいって言われてて。」 「え!誰?どんなヤツ?どうすんの?付き合うの?」 「そんなにいっぺんに答えられない。あのね、デパートの子。」 「どうすんの?好きなの?」 「ううん。友達としてならいいけど。」 「ちゃんと断ったの?」 「これから。」 「なんて言うの?」 「お友達ならいいって言うつもり。」 「なにかされたら俺に言え。」 「なにかって?」 「逆恨みとか、ストーカーとか、職場のイジメとか。」 「そんな子じゃないよ。」 「俺、体力ないし、あんまり当てにならないかもだけど。」 「女の子だよ。」 「え、まさか?マジ?」 「だって僕、男の子だし。」 「そうだな、それ当たり前だよな。考えたことなかった。」 朝食のあと、雄真がテレビでウツの人は朝日を浴びるといい、って言ってたとかで、中庭に出た。家の中庭は広くて東南の光がよく入る。家にはガーデニングなんて気の利いたことする人がいないから、適当に木が植わってる。 「毎朝15分くらいでも大分元気になるらしいわよ。」 「15分でいいの?」 「そうらしいよ。」 「ところで、そのソロリティでは、先輩と後輩がエッチなことするの?」 「っていうかね、片思いとかも色々あって、でもキスまでいったりもするの。」 「なんだ、キスまでか。」 「それはね、麗花様の大事な漫画で、しっかりカバーをかけて、読む時も手を洗ってから。もう40年くらい前の昔の漫画。」 「姉さん、そんな古いのどこで見付けたんだろう?」 「オークションで買ったって言ってた。」 「そんなことばっかりしてるから、いつまでも嫁に行けないんだ。」 「まあ!麗花様にふさわしい男がいないんです!」 「肩を持つんだな。君がもらってやれば?」 「僕はお姉様達のしもべですから。」 「なにそれ?」 「あのね、その少女漫画ごっこはそういう設定で、お姉様方はお嬢様なんだけど、僕はお手伝いさんの娘なの。」 「え、そういうシチュエーションなの?」 「ほんとにそういうストーリーなの。」 「君達はその少女漫画ごっこ、今でもやってるの?」 「そうよ。だから麗花様、唯花様、ってお呼びするの。」 「それだからふたり共嫁に行かれないんだ。」 「唯花様にも、ふさわしい男がいないんです!」 「どうでもいいけど、そろそろ15分くらい経っただろう?」 「どうせやることないんだから、ずっとここにいれば?」 「日光に当たってると、逆に暗いことを考えたくなる。」 「じゃあ、あと5分。ちなみに暗いことって、どんなこと?」 「オーバードース。」 「僕みたいな可愛い恋人がいるのに、信じられなーい。」 「そんなことより、その漫画、最後はどうなるの?」 「それがね、誇り高い麗花お嬢様に憧れてる、お手伝いさんの娘の僕だったんだけど、実は、麗花様は養女で、僕のほんとのお姉様だってことが分かるの。」 「面白そうかもしれない。手を洗って読めばいいんだろ?」 「うん。」 「それで君達はその役で劇みたいにやるの?」 「そう、そう。」 「じゃあ、唯花様はなんの役なの?いけない。唯花に様つけちゃった。」 「ええっとね。唯花様は、主人公の親友。」 「主人公って誰なの?」 「主人公はね、結構キャラクター的に地味だから、やりたい人がいなくて。僕の役は、途中で死んじゃうんだけど、男装の麗人でメチャカッコいいの。お手伝いさんの娘にしては。」 「へー、なんで死んじゃうの?」 「あ、それはね、ちょっと言いたくない。」 「なんで?」 「その本ほんとに読むつもりなの?」 「うん。どうせ俺、やることないんだろ?」 「え、マジ?」 「姉さんにラインして聞いてみるから。」 「ほんとに読むんなら教えてあげるけど。」 「読むよ。」 「あのね、僕の役の人、普段から薬をやたら飲む人で、ある日オーバードースで死んじゃうの。」 「原因はなんなの?」 「なんていうか、礼ちゃんっぽい感じもある。厭世的で退廃的。でも純粋に麗花様のことを愛してらしたの。」 「なんか君、目の中にバラの花が見えるよ。」 麗花様にラインして、手を洗ってからその漫画を読み始めた。暇潰しにはよかったけど、あの3人が今でもこの漫画ごっこをしてると思うと怖い。唯花様はまだ大学生だけど、麗花様なんてもう立派な社会人だぞ。雄真だって立派な社会人だ。なんだかんだしてるうちに、丁度読み終わった頃に雄真が部屋に来る。 「礼ちゃん、お昼なに食べたい?」 「俺、お手伝いさんの娘の役やりたい。退廃的でカッコいい。」 「ダメ、あれは僕なの!」 「君は誰か他の役にして。」 「絶対ダメ!」 「なんでそんなにかたくななの?」 「だって僕、もうかれこれ3年くらいあの役だし。」 「君達3年もそれやってんの?」 「そうよ。」 「俺より君達の方がずっと病気だな。」 お昼は外に食べに行くことにした。この町内では雄真がドレス着てようが、気にする人はいないんだけど、彼は家に寄って着替える、と言って先に出て、しばらくして迎えに行ったら、ちょっと化粧でカジュアルで綺麗な色のスーツ。俺がいいな、って言った通りのカッコ。可愛い。 「礼ちゃん、なんか変。」 「どうして?」 「なんか僕のことお姫様扱いして。」 「そうかな?」 「さっきレストランのドア開けて入れてくれたし、椅子も引いてくれたし。」 「半分は無意識だよ。」 「半分?」 「君のことが大事だから。」 そしたら雄真はメニューに顔を埋めたまま、静かになってしまった。 「そんなに迷うんなら、本日のランチにしたら?」 それでもまだ大分静かで、 「なに?早く決めないとお店の人が困るだろ?」 「礼ちゃん。」 顔を上げると、雄真はなんだか泣き顔。 「なに泣いてんの?」 「だって礼ちゃんが・・・」 お店の人が3回目にオーダー取りに来て、俺は、 「本日のランチ2つで。」 その割には随分時間がかかったな、という顔をしてその人は行ってしまった。 「それで、なに泣いてんの?」 「礼ちゃんが、僕のこと大事だなんて。」 「あ、それね。」 彼は、見事にアイロンのかかった真っ白い布ナプキンで鼻をかむ。 「君が一緒にいてくれると、ほんとに気分がいい。病気のことなんて忘れそうだ。」 「よかった。」 と言って、涙を拭く。 「でも、またひとりになるときっと具合が悪くなる。」 「いっけない。メイク直してくる。」 彼はトイレに走って行く。どうなのかなって見てみると、彼は女性用に入って行く。へー、そうなんだ、と俺は思う。料理が出て来ても彼は出て来ないから、呼びに行った方がいいのかな、って考えてるとやっと出て来た。 「つけまつ毛が取れちゃった。」 「大丈夫。可愛いよ。」 「礼ちゃん、そんな優しいことばっか言われると、また泣きたくなっちゃう。」 その割には食べる物はしっかり食べている。本日のランチなんて、実は見もしなかったんだけど、ジューシーなチキンブレストとマッシュポテト、それにアスパラガスのサラダ。デザートまでついている。こんな住宅街にあるレストランなんて誰が食べに来るんだろう、ってずっと思ってたんだけど、やっぱり客はあんまりいない。ビジネススーツを着た3人があっちに、近所の奥様っぽいグループがそっちに。 「僕ね、夕べパパにちゃんと挨拶しないといけなかったんだけど、どさくさに紛れて言えなくて。」 「なにそれ?」 「僕ね、夜の商売で無事お金が貯まったから、これからメイクアップの学校に行くの。」 「すごいじゃない、おめでとう!今夜はお祝いしよう。」 「ありがとう。だから昼のデパートはそのままで、夜は学校へ通うの。」 「あの怪しいホステス業は廃業なんだ。」 「そうなの。パパには色々お世話になって。」 「偉いな、俺より君の方がずっとしっかりしてる。なにか欲しいものある?それとも行きたいとこある?」 「なんか礼ちゃんと、ロマンティックなデートがしたい。でもそしたらまた泣いちゃうかもしれない。」 「じゃあ、ドライブに行こう。どこがいい?」 「分かんない。考える。僕ね、ちょっと罪悪感なんだけど、礼ちゃんが病気で家にいると、ずっと一緒にいられるからハッピー。」 「俺も君がいてくれると具合がいいし。俺達が一緒にいられれば一番だな。」 そしたら彼はまた黙っちゃって、下向いちゃって、それも可愛いんだけど。でもデザートが出て来たら、一生懸命食べ出す。 「えー、こんなに立派な車買ったんだ。」 「俺のじゃないよ。会社の。」 「パパの会社の?」 「そう。」 「税金対策?」 「そうでもあり、そうでもなく。俺、社員だから。」 「そうなの?どうするとそんなことになるの?」 俺達は東京の郊外へドライブに行く。いい天気で運転も楽しい。車の中にいると、こないだと違う香りがする。 「今日のはなんの香りなの?」 「これはね、よくあるヤツ。カルバンクライン。」 「ふーん、それも中性的だね。」 「女の子がよく買ってく。ほんとは男性用なんだけど。」 「商品覚えるの大変だね。」 「銀座のデパートはすごいよ。クリスマスとかになると、男性のお客さん、なに買っていいか分からないから、僕達が入口まで行って待ってて捕まえて、商品買わせるの。ジュエリー売り場とかバッグの売り場のヤツ等と競争。」 「競争か。」 「ゲーム感覚。みんな普段から仲いいし。フレグランスは直接肌に使う物ですから、最もセクシーなギフトですよ、とか言って。そんなこと言ったらコスメティックとかもそうなんだけど。」 「まだまだクリスマスまで大分あるね。」 「うん。景気が少しよくなったから、新橋とかのホステスさんに、ちょっとした贈り物買ってったりするの。銀座だよね。僕、そういうの好き。」 後ろの車がやけに煽ってくる。俺は上手によけてソイツを先に行かしてやる。 「僕ね、礼ちゃんのそういうとこ好き。」 「どういうとこ?」 「ヘタにバカなヤツと争わないとこ。それより礼ちゃん、ってパパの会社の社員なの?」 「正式に言えば大学出てからなんだけど。」 「礼ちゃん、って大学でどんな勉強してるの?」 「人工知能。」 「へー、意外。」 「なんだと思ってたの?」 「もっと世の中のためにならないようなもの。なんか、ルネッサンスの美術について、とか世紀末の怪奇小説について、とか。」 俺は思いっきり笑い出して、 「どっからそういうのが出てくるの?」 「お客さんにそういう勉強してる大学の先生がいたの。」 「父が数年後にIT業界に参入する計画をしてて。」 海の見えるスポットで、車で2時間以内で行ける所を探した。もうそろそろ着く時間。 「礼ちゃんも僕が思ったよりしっかりしてる。」 「君に言われると不思議な気分だな。」 「そう?だって礼ちゃん、現実離れしたみたいなことよく言うし。」 「人工知能ってさ、ある意味SFの世界だから。」 「僕達、ってよく知ってるようで、知らないこといっぱいあるね。」 「君が姉さん達と少女漫画ごっこばっかりしてるからだろ?」 「いいとこだね。海見るの久し振り。今年は海水浴も行けなかったし。」 風があって、少し肌寒くなって、俺は雄真を背中から抱いて、 「来年は泳ぎに来ような。」 って耳に囁いた。 「今の、まだ昼間だからいいけど、もし夕方それ言われたら、絶対泣く。」 「今日はよく泣いてるよね。」 「僕の方がウツみたい。」 「俺は全然平気なのにな。」 「ドクターに病院に入りたくなかったら、家族と一緒にいるように、って言われたんでしょう?」 「君は僕の家族だから。」 俺はワザと泣かせるように言ってみた。雄真は俺の胸に顔を埋めてマジで泣きだして、鼻水まで流している。そこまで泣かそうとは思ってなかったけど。泣くのが少しおさまってから、 「俺達、一緒に住めたらいいな。俺のマンション2人で十分住めるよ。」 彼はまだ涙を流しながら聞いている。 「でも銀座までは少し遠くなるな。」 「だけど、メイクの学校はすぐ近くだよ。」 「ほんと?じゃあ、そうする?」 彼は黙って考えてる。 「僕、家賃とか払えない。」 「いいよ、僕だって払ってないし。側にいてくれるだけで。」 また泣かせようとして、ドラマティックに言って、ついでにほっぺにキスしてみた。雄真は俺の胸に顔を埋めてオイオイ泣き出して、周りにいる人達にチラチラこっちを見てる人もいるんだけど、俺達のこと、どう見えるんだろう?雄真の髪は今、そんなに前みたいにバカみたいに長くはないけど、肩まではあるし、キューピッドみたいにクリクリした巻き毛。きっと後ろから見たら女の子に見えるんじゃないかな?体型も女の子だし。どうでもいいけど。海岸にある老舗の旅館に入った。まだ食事の時間じゃないから、ふたりでお店をのぞいたり、俺は家の連中と石山さんにお土産を買った。雄真はトイレに入ったまま出て来ない。見てたら、今度は男性用のに入って行った。どういう基準なんだろう?って俺はしばらく考える。やっと出て来て見たら、化粧はサッパリ落として、髪は後ろで結んで、しっかり男の子になっている。それが妙にそそる。 「可愛いよ。」 「礼ちゃん、もう泣かせないで。疲れちゃった。泣き過ぎて。」 「俺、って基本、ただのゲイだから、やっぱ男の子は好きだな。」 「万が一、僕達一緒に住んだら、僕は家ではいつもこうだよ。」 「いいな。押し倒したくなる。今夜ここに泊まってく?」 「ダメ、明日デパート早いから。」 「制服とかあるもんな。」 「あ、これ、着てんのデパートのユニフォームだから。」 「え、マジ?そんなんだっけ?」 「僕、スーツとかこれしか持ってないし。」 「いいスーツだよね、色も。それなに色って言うの?」 「ミントグリーン?ライムグリーン?そんな感じ。これ実はね、少し改造してあるの。内緒で。」 「へー。」 「ウエストとかちょっと細めにしたりとか。ボタンの位置変えたりとか。」 「へー。」 「それからパンツも少しお尻の形が出るようにしてるの。」 「そんな難しいことよくできるな。」 「お洋服好きだから。今度一緒に買い物に行こう。」 「俺ってそんなにセンスない?」 「そうじゃなくて、僕が選びたいの。僕の礼ちゃんにしたいの。」 「君の礼ちゃんってどんな感じ?」 「ええとね、インテリ大学生。でもセンスのいい彼女だか彼氏だかが、いつもセンスのいい服を選んであげてるみたいな感じ。普通の大学生より、うーんとファッショナブル。」 「うーんと、ね。」 「髪の毛はね、僕はもっと短いのが好き。」 「そうなの?これよりもっと?」 「そう。トレンドだから。でもね、それってすぐ変わるから。毎年。」 「フレグランスは?俺、使ったことないけど。もし使うとしたら。」 「いいご質問。礼ちゃんの場合は、下手にさわやかにしないで、ぐっとセクシーに大人っぽく。」 「え、どんなの?」 「トラディショナルにいくなら、シャネルとかディオールだけど、僕、礼ちゃんにはもっと冒険してもらいたいかも。今度デパートに来て。実際につけてみないと、その人の体臭によっても変わるから。」 「そんなに繊細なものなんだ。」 「セクシーに大人っぽく。僕、実は香りにヤられるタイプ。礼ちゃんのこと押し倒しちゃう。」 「俺達一緒に住んだら大変だな。お互いに押し倒すんだ。」 「あ、そうだ。僕サンプル少しポケットに持ってる。なにがあるかな?この中ならゲランかな?礼ちゃんだったら。あ、ダメ。こんなとこでつけたら僕、押し倒す。」 なんだかんだ食事の時間に近付いて来たので、俺達はその旅館の中でもカジュアルなレストランを選んで入った。シーフードが色々。一番最初の客だったからかは知らないけど、窓際の席をくれた。海がすぐそこに見える。食べている間に、日も大分傾いてほんとにロマンティックなデートになってきた。 「俺はほんとに君と一緒に暮らしたい。」 雄真の食べる手が止まる。そして黙って窓の外の海を見詰める。それってどういうことなんだろう? 「もし君がイヤなら・・・」 「そんなわけないけど。どうしたらいいのかな、って。」 「なにを心配してるの?」 「分かんない。急だし。」 「学校はいつからなの?」 「10月。」 「すぐじゃない。学校が始まる前に引っ越して来れば?」 「礼ちゃん。僕、ひとつだけ気になることが。」 「なに?」 「僕、もし礼ちゃんの具合がほんとに悪くなっちゃって、僕だけではどうにもならなくなっちゃったらどうしようって。」 「君に面倒見てもらうつもりで、一緒に暮らしたいわけじゃないし。どうにもならなくなったら、病院に入るし。あ、でもちょっと待って。俺、無意識にそういうこと考えていたかもしれない。よかった、言ってくれて。」 「面倒見たくないとか言うわけじゃなくて、病気のことよく勉強したいとは思ってるし。」 俺は過去、ウツ病で何カ月も入院した過去があるから。雄真は近所で幼なじみで、だからよく知ってる。初めて長期入院したのは中学の時。雄真も時々お見舞いに来てくれた。初めてのオーバードースが高校の時。それ以来癖になったみたいになん回も同じ間違いをして、でも死ねなくて、そういうことも彼は知ってる。 「こないだ雄真が家にお見舞いに来てくれて、すごく嬉しくて、だからなんとなく側にいて欲しいって思ったのかも知れない。でも君のことが好きで一緒に暮らしたいのも本当の気持ち。家事の分担とか、考えてみたら色々話し合うことがあるな。」 「今までの夜の仕事はチャラチャラしてるだけで、どうでもよかったんだけど、学校はちゃんと行きたい。」 「うん、分かった。病気のことで君に負担はかけない。そういう約束をしよう。」 「ゴメンね。こんなこと言いたくなかったけど。礼ちゃんのことは大事だけど、僕にもできることと、できないことがあるし。でもね、僕ね・・・」 雄真はまた泣きそうな顔になって、しばらく暗くなっていく海を眺めて、それから僕の方に向き直って、目を真っ直ぐ見て、 「僕ね・・・ほんとはね・・・礼ちゃんが病気になったら、心配でずっと側にいちゃうと思う。だから自分がしっかりして、突き放すくらいの気持ちでいたいの。」 泣きそうになったけど、泣かなくて、俺はその決心がすごいな、って思って、 「偉いな。ちゃんと夢を持って学校へ行こうとしてるんだもんな。俺も応援する。君の学校と仕事は大事だから、俺の病気のことは気にすんな。でも君が一緒にいるだけで、きっと具合もよくなる。」 「だったらいいな。」 「なにか考えよう。最初は時々泊まりに来るとか。」 「礼ちゃん、今、ウツなんでしょう?ほんとは入院しろ、って言われたんでしょ?」 「そう。」 「そしたらね、僕、そういう時の礼ちゃんと一緒にいてみたい。ふたりっきりで。どんなものか分かるでしょ?」 「なるほど。」 「でもね、僕ね、絶対なんとかなるって思うんだよね。」 「ほんと?」 「僕、ずーっと礼ちゃんの側にいたいし。」 俺はテーブルの上にある彼の手に、そっと自分の手を重ねる。

ともだちにシェアしよう!