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嫉妬するなんて 3

「待って!待って!丈…」 どんなに追いかけても追いつけない。 怖い。寂しいよ… 俺を後ろから抱きしめる安志の腕から抜け出し、夜道を走った。 息が苦しい。胸が苦しい。 掴んだ俺だけの月のような人が俺と重なった後、そのままズレて手が届かなくなってしまうような、もう会えなくなるような、なんともいえない喪失感と不安に押し潰される。 遠い昔、俺は丈と出会っていたんじゃないか。何故そう感じるしっくりとした不思議な感じ。 遠い昔俺と丈には悲しい別れがあったんじゃないかという不安な気持ち。 その二つの感情に押し潰されそうになるよ。 こんな風に丈とすれ違う時は必ず… こんなことしてちゃ駄目なんだ。俺たちは。 結局テラスハウスに戻るまでに丈には追いつけなかった。 せっかく迎えに来てくれたのに、俺はあんな態度を取ってしまった。 丈が怒るのも無理がない。 でも俺と丈との関係は、たとえ信頼している幼馴染の安志でも言うことは出来ない。守らないといけない。 丈は絶対に他人から後ろ指をさされることがあってはならないから。 恐る恐る玄関を開けると、いつものようにリビングの隅にあるPCに向かい丈が作業している姿が、部屋の灯りに浮かび上がっていた。 その、いつもの光景にほっとする。 そっと丈の後ろから腕を回し、丈の首に顎をのせた。 「丈…ごめん…」 「…洋」 まわした俺の手に、丈の手が重なるとその温もりに冷えていた心が溶けていく。 「こんな遅くまで何処にいた?」 「連絡できなくてごめん、帰ろうとしたら先輩に飲み会に連れていかれて…」 「何があった?」 やっぱり安志のこと気にしているよな。 過去に安志に告白されたこと。抱きしめられたこと。電車で痴漢から守ってもらったこと。 なんとなく安志の立場も考えると正直に言えなくて、思わず言葉を呑み込んでしまったんだ。 「…何もないよ。飲み会で偶然さっき駅で紹介した幼馴染に再会したんだ。それで少し話していた」 「それだけか?」 「んっ…安志は、ただの幼馴染だから…」 じっと瞳の奥を覗きこまれ胸がぎゅっと締め付けられた。 嘘をついたのは俺だ。 「丈、さっき迎えに来てくれたの?心配かけたよね…俺、連絡しなくて」 「あぁ気になってな…」 「ごめん。俺なら大丈夫だよ。」 「…本当に何もなかったのか」 「…うん、丈」 「洋ちょっとこっちへ来い」 ぐいと手首を掴まれ、丈の部屋に連れて行かれベッドに座らせられる。何故か掴まれた手首に力が籠っている。 「…丈?」 見上げると、丈の瞳にゆらゆらと暗い影がさしていた。

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