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月輪の約束 10
その男が俯いていた顔をあげ、こちらをまっすぐに見つめた。
えっ俺のことが見えるのか。
ギョッとしたが、そうではないようだ。
俺を通り過ぎて、目線はその先の青く澄み渡る空を見つめていた。
(ジョウ、君じゃなきゃ駄目だ。俺はまたお前に逢うために、何度でも生まれ変わってみせる。そして今は届かぬ想いを必ず届けてみせる…)
そう呟いたような気がした。
男の心の声が染み入るように俺に響いてきた。
『心の共鳴』とはこういうことを言うのか。
見上げた眼は青空の様に澄んでいて、その澄んだ眼から一筋の涙が溺れ落ち、その男の胸元の月輪のネックレスを潜り抜けた後、吹き抜ける風に舞っていった。
その涙はキラキラと輝いて、彼方へと運ばれていった。
遠く彼方へと…
****
「洋!洋!」
彼方から俺の愛しい人の声が戻ってくる。
はっと目覚めるとホテルのベッドに寝かされていた。
「…んっ…丈?」
慌てて起きようとすると、頭が割れるように痛んだ。
「っつ!頭痛い…」
「洋大丈夫か。いきなり倒れて…本当に心配した」
丈が心底安心した表情で俺のことをぎゅっと抱きしめてくれる。
あぁ暖かい…ここが俺の場所だ。
俺も丈の背中に手をまわしてその体温を確かめる。
「丈…俺は…そうか…急に倒れたんだね」
「洋…お前がいなくなってしまいそうな気がして、私は恐ろしかった」
「ふふっ…大袈裟だな。丈、水を一杯くれる?」
「あぁ待ってろ」
丈が水を取りに行っている間に、頭の中を整理してみた。
今度ばかりは、はっきりと覚えている。
いつもいつも朧げだったあの夢の続き…
いつも後姿だったあの男の顔…あの人は俺だったのか。
あの男の涙の行方はどこだ?
あの男が探していた相手は…もしかして丈なのか?
「洋、水だ」
「ありがとう」
水を飲もうと受け取ると…丈の片方の手に握られているものが目に入った。
「丈!それっ!」
月のように白く輝く月輪は…
これは、ついさっき夢の中の男が胸にしていたものじゃないか!
こんな!
こんなことってあるのか?
信じられない!
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