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君の声 2
「これは崔加さま!帰国されていたのですか」
「やぁ本部長、いつも息子がお世話になっているね」
猫撫で声で媚びへつらう本部長の様子を見ながら、乾いた笑いが零れた。
結局俺は会社でも父の支配下だ。
机に座って目を閉じると思い出す。タクシーから降りてすぐに感じた丈の心配そうな表情。もしかしてさっき俺を待っていてくれたのか。たった2日会ってないだけなのに懐かしく感じたよ。今すぐあの胸に駆け込んで、いつものようにきつく抱いてもらいたい。そんな衝動に駆られたが、それはもう出来ない夢なんだと痛感した。
誘導するように腰にまわされた父の手。
その熱に寒気を感じながら、丈の前を通り過ぎた。
悔しい……どうして俺はこうなってしまったのか。だが……父が帰国したらチャンスがあるかもしれない。
せめて話をしたい。
抱いてもらえる躰ではなくなってしまっても、ああやって丈の顔を見てしまうと決心が揺らぐ。
顔を背けてしまった俺のことを怒っているか。父と一緒の所をどうしても見られたくなかった。
──許してくれ。
「洋、これで私は一旦帰国するからな。毎日きちんと連絡するんだぞ。またすぐ帰って来るからな」
「……はい」
傍から見ればば普通の親子の会話に聴こえるのだろう。本部長と共に会社を出て行く父の後姿を見て、ほっとした。
よかった。これで今日からは……あの人にもう抱かれなくて済む。
****
「崔加!元気にしてたか? 夏休みどこ行った?」
隣りの部署の同僚が笑顔で話しかけてくる。
「あっ……ああ」
「俺は海に行って彼女が出来たんだぜ。友達も綺麗どころが揃っているから、お前にも紹介してやろうか」
「それは……良かったな」
「なぁ~飲み会するから今度来いよ」
「いや俺はいいよ。興味ないし」
同僚は怪訝な顔をした。
「お前って本当に変わっているよな。その綺麗な容姿に惚れる女が山ほどいるのに片っ端から振っていくなんてさ。なぁもしかして女に興味ないのか。ほら、いつもつるんでる医務室の張矢先生と怪しいって噂もあるんだぞ!わははっ」
「なっ!やめろよ。張矢先生は関係ない」
「おいおい冗談だよ。本気になるなよ!」
冗談でもやめて欲しい。そんな噂が父や上司の耳に入ったらどうなる?背筋の凍る思いがした。ともかく丈がこの部署にくるのはまずい。この部署には父の息がかかった人たちが沢山いるから。俺の方から勇気を出して丈が来る前にそっと会いに行こう。
始業ベルが鳴ると、またいつもの日常が戻ってきた。
夏休み前と後とで、こんなにも俺自身の境遇が変わるとは思っていなかった。
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