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明けない夜はない 8
「一体……誰にこれを……つけられた?」
薄い肩を必死に揺さぶるが、洋は唇をきゅっと噛みしめて俯いたまま答えない。言えない相手なのか。丈って奴に知られたくないってことは、待てよ……
「洋……お前……まさかその丈って奴と……」
「えっ……」
狼狽した表情で、洋が切なげな声をあげる。
「洋、そうなのか。もしかしてお前達、ただの同居人じゃないのか!」
「……」
あの丈って奴も必死に洋のこと探していた。想い合っているのか、もしかしてお互いに。いつの間に、俺の可愛い幼馴染は手が届かない所に行ってしまったのか。
「洋、これだけはきちんと答えろ、誰にやられた? さもないと丈さんに連絡するぞ」
悲痛な顔で洋が首を横に振る。
「駄目だ……お願いだ。安志……」
「じゃあ正直に答えろ! 誰だ?」
洋の唇が小さく震えながら何かを必死に言おうと開いたが、やはり途中で止まってしまった。
声の代わりに流れ落ちるのは、とめどない涙。目からボロボロと大粒の涙をこぼしながら、俺のことを真っすぐに見つめてくる。
「安志……ごめん。俺の問題だから……大丈夫だから。ここで一晩寝れば大丈夫。俺は何とかやっていくから……だからもう聞かないでくれ……」
興奮したせいで洋は呼吸が苦しそうで今にも倒れそうだ。更に熱があがってしまったのか真っ赤な顔をしている。今、これ以上問い詰めるのは酷だと思い、俺も一旦追及を緩めた。
「いいよ……洋、今はもう聞かない」
途端にほっとする洋の表情に、胸が痛む。
「ありがとう安志。いつも……いつも迷惑かけてごめん」
俺はそっと洋の髪の毛を撫でてやる。
「少し眠れ、熱が高くて辛そうだ」
「……あぁ」
「着替えをここに置いておくから自分であとで着替えろ」
「分かった」
緊張がほぐれたのか、再び洋はうつらうつらし出した。その寝顔を見つめていると、俺の胃がキリキリと痛んだ。
くそっ!なんてことだ。
洋はあの丈って奴と寝たのか。もう肌を重ねる間柄になってしまったのか。俺じゃ駄目だったという訳だ……やっぱり。
あいつは、あの日駅まで洋のことを迎えに来ていたのか。二人は幸せに暮らしていたのか。
一体そんな二人に何が突然起こったのか。何者かが引き裂いたのか。洋の身辺に最近何か変わったことはなかったのだろうか。
俺はいつか洋が遠い所へ行ってしまうことが、分かっていたような気がする。俺じゃない誰かと行ってしまうことは覚悟していた。だが……こんな形で気が付くとは皮肉すぎるな。
でも……どんな状況であろうと立場であろうと、小さい時から大切に見守ってきた洋が悲しむ姿を見るのは嫌だ。
俺が今出来ることはなんだろう。
洋にはいつも笑っていて欲しいよ。
今まで苦労した分、幸せになってもいいはずなのに。
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