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明けない夜はない 10
大事でなければいい。そう思う俺の気持ちは無残にも裏切られる結果となった。
父さん
父さん
父さん
父さん
洋の携帯の着信履歴は、洋のお義父さんからのメールで埋め尽くされていた。何十件という大量なメールの山に辟易する。なんだよ、これ?異様だろう。所々添付ファイルも付いている。たぶん消しても消しても、送り付けられてくるようだ。
もう見なくても分かった。
洋を傷つけたのは、洋の義父だ。
きっと今もなお、洋を監視している。
昔から洋も何となく嫌な空気を感じてか、義理のお父さんとは余所余所しい関係だった。特にお母さんが亡くなってから、二人きりが気まずいとたまに俺に打ち明けていた。あぁでも……今俺の頭の中で想像したことが真実だったら、一体どうしたらいいのか。
しっかり確認しないといけない。覚悟を決めて。
俺は恐る恐る震える手で一つの添付ファイルを開いてみた。
「あっ」
衝撃だった!目を背けたくなる内容だった!
嫌がる洋を押さえつけて跨る男が撮ったであろう写真。
洋は全裸で、苦痛に顔をしかめている。
もう1枚の添付ファイルを開くと、入浴中の裸体の洋の写真だった。
これは……隠し撮りか?動画まである。
もうそれ以上は手も震え確認出来なかった。
な……なんてことだ。思わず目を背けたくなる異様な光景だった。
吐き気が込み上げて来る!
怒りに震える!
あいつに犯されている洋なんて見たくもなかった。
くそっ!なんてことだ。
洋、何でこんなやつの思いのままにされているんだ。何でこんな風になる前に、あの丈という人にでも、俺にでも誰かに一言相談できなかった? 俺の眼にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
悔しい!悔しいよ。洋がこんな目に遭ったなんて……
何も知らなかった出来なかった俺は無力だ。
洋を起こさないようにと気を遣って静かに行動していたが、もう限界だった。
「ううっ……洋っ洋っ」
俺は洋を抱きしめて慟哭してしまった。
「洋っ怖かったろう?こんなこと立派な犯罪じゃないか……」
ぼろぼろと悔し涙が溢れてくる。声に出してこんな風に泣いたのはいつぶりだろうか。
「んっ…安志?」
びくっと洋が目覚めたようで躰が震える。
「……どうして泣いてる?」
「洋っお前どうして言わないんだよ、あいつを訴えろよ!」
「えっ……安志……何を?」
「……悪い。携帯見たんだ」
「えっ……」
その途端、洋の躰はぶるぶると震えて、俺を突き飛ばした。そして手元に転がった携帯を奪い確認し始めた。もう顔色は蒼白だった。
「まっまさか……安志これを見てしまったのか。なんで……俺っさっき何も聞くなって言ったじゃないか!こんなこと……お前にだって言えないし、知られたくなかったのに!何で勝手に……」
そのまま携帯を壊れるほど強く床に放り投げ、そのままその場にしゃがみ込んで肩を揺らし涙に濡れていく洋。そんな洋を呆然と見つめていると、何処へあたったらいいのか分からない怒りが沸々と湧き上がってくる。
儚げだ。こんな薄い肩じゃ、こんな躰じゃ抵抗出来なかったに違いない。洋のせいじゃない。それは分かっているのに、俺の心は抵抗出来ずに、されるがままになってしまった洋に対して、悔しくも悲しい気持ちで押しつぶされそうになった。
「洋、落ち着いて。とにかくこれ食べて着替えて今日は寝ろ。安心しろ、俺は誰にも話さない。俺の口が堅いのは知っているだろう」
「……安志」
「洋……その代わり、この状況を打破できるように俺に手伝わせてくれ」
「そんなこと……お前に頼めない」
「何故?」
「安志はどうして……?俺は何も返せない」
「それでもいい。俺は洋のことが好きだから。離れてしまった5年間に考えたんだ。たとえ洋が俺のこと振り向かなくていいんだ。もうそれはあの時終わったことだ。でも俺が好きになった洋にはいつだって微笑んでいて欲しい。そのための手伝い位……せめて……させてくれよ」
「……駄目だ」
「何故だよ! 洋の役に立ちたいんだ! 」
「安志……お前は優しすぎる」
俺は洋を抱きしめる。一瞬戸惑った洋も俺の背中に手を回し、それから二人で涙で顔を濡らしながら少しの間だけ、無言で抱き合った。
洋に希望の光が見出せるように、祈りを込めて……
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