125 / 1585
決心 2
「洋、俺の話を聞いて協力してくれないか」
「一体……何を?」
「俺さ、今日お前の部屋に行ってきた」
「……それで、どうだった?」
「うん、やっぱり想像通り……隠しカメラ3個と盗聴器が部屋には仕掛けられていた」
「うっ……」
「ったく、犯罪行為だよ。バスルームにまで……なんて」
「そうか……やっぱり」
洋は想像通りというような苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、目線を遠くへ彷徨わせていた。やっぱ気まずいよな。こんなこと。義理の父に、盗聴器や隠しカメラを仕掛けられ、すべてを覗き見されていたのだから。
「洋、お前のお義父さんは今まとな精神状態じゃない。これを証拠に訴えることもできるが、そうすると洋も丈さんも世間の厳しい目の犠牲になるかもしれない。まして洋の義父さんは力を持っているし……」
「……俺は丈の迷惑になることだけは避けたい。俺のせいで、丈の人生まで台無しにしたくない」
「洋、それは分かるが、二人がどうしたいかを優先しろ。洋だけが一方的に決めては駄目だ。丈さんは何て言っていた?引き止められなかったか」
「………行くなって言われた」
やっぱり丈さんと洋は一緒にいないと駄目だ。俺は洋の肩に手をあて、ゆっくりと告げた。
「洋、お前、丈さんと逃げろ」
「えっ逃げる?そんなこと出来ないよ。義父さんに見つかったらどうするつもりだ?」
「俺が何かしら洋のお義父さんを足止めするから、二人で行け。いずれにせよこのままの状況でここにいては駄目だ。次に帰国してしまう前に二人で旅立て!盗聴器やカメラの画像を2日ほどなら以前の画像と差し替えて不在をごまかせる。その間に行くんだ。出来るだけ遠くへ」
「そんなこと無理だ」
「洋、よく聞けよ。お前はそうした方がいい。お前の居場所はここじゃない。丈さんの所なんだろう?」
****
安志から驚くべき提案を受けた。今までの俺にはない考えだった。いつも耐えることの繰り返しだったのに、本当に全てを捨てて逃げてもいいのか。そんなことしていいなんて、夢にも思わなかった。
「丈のところへ?丈と二人きりで……」
そう繰り返すようにつぶやくと、途端に胸元の月輪のネックレスに温かみが増してきた。
「安志……俺はそんなことをしてもいいのだろうか」
「洋は今まで本当に頑張ったよ。よく耐えた。次にお義父さんが帰国する前に行け。早くしないと手遅れになる」
「……わかった」
「早い方がいいから次の週末には行けよ。会社に出社しないことまでは誤魔化せないから、金曜日の夜、丈さんと旅立て。丈さんには俺から話しておくから」
「……でも、丈は俺と行ってくれるだろうか」
「洋、心配症だな。丈さんはお前に惚れているのだろう?くそっ!本当にいつか恩返ししてくれよ。俺にも」
「安志……」
俺のことをずっと想ってくれていたのに、俺の幸せを優先してくれる安志。俺の幼い頃からの幼馴染、そして大切な大切な友達。本当に大事な心の友だ。
「お前以上の親友はいないよ」
俺は安志を抱きしめた。
安志も俺を抱きしめた。
安志は少し躰を震わせ、涙で濡れた真剣な眼で懇願するように俺に告げた。
「洋、あのさ……一度でいいんだ。一度だけキスさせてくれないか。これで本当に終わりにするから。洋への想いこれで断ち切るから。お前を笑って送り出したい」
「……安志……うん、親友としての情愛のキスをしよう」
その提案を俺は素直に受け入れた。
ゆっくりと涙で濡れた二人の顔は近づき、一度だけ、お互いしっかり意識を持って、口づけした。
涙で濡れたキスだけど、幼い頃からの想いが重なって、とても清らかな口づけだった。
安志の唇は暖かく優しかった。
「洋……ありがとうな。もう俺はこれで十分だ。この先は、丈と行け」
「ありがとう。安志、俺はお前の親友だ。ずっとずっと……この先も」
ともだちにシェアしよう!