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※安志編※ 面影 3
「Hey you! wait!」
俺の横をすり抜けた影は更に速度をあげ、財布を持って逃げた男の所にすぐに追いついて、あっという間に後ろ手にねじりあげて財布を地面へ落とさせた。足が速くその所作も俊敏で綺麗な奴だ。そしてまだ若い男なのに、はっとするほど凛とした雰囲気だ。
とにかく、助かった!
「Stay lost!(もう二度と現れるな!)」
財布を拾う間に男たちは逃げてしまったが、そこまでは深追いしないようで、走ってやっと追いついた俺の方を振り返った。
「なっ!」
思わずその笑顔に急ブレーキをかけてしまった! だって財布を奪い返してくれた人は、あの飛行機で見かけた洋によく似た少年だったから。
「あの……日本人の方ですよね、大丈夫ですか。道でぼんやり地図なんて広げていたら危ないですよ、はい財布、中身を確かめてください」
彼は太陽のような雰囲気でクスっと微笑みながら、俺の手に財布を載せてくれた。なっなんか俺……格好悪いぞ。立場が逆じゃないか。
「はぁ……はぁ」
お礼を言おうと思ったが、急に走ったせいで息があがって言葉がうまく出てこない。まさかこんな所で再会するなんて……しかも助けてもらうなんて驚いたよ。思わず苦笑が漏れてしまう。
「あっあの……ありがとう!」
やっと息が整いお礼を告げながらも、まじまじと正面からその洋に面影が似た顔を眺めてしまった。やっぱり……目を反らすことが出来ない。見れば見る程、目鼻立ちが洋と似ているな。そしてやっぱり違うのはその太陽のような明るい笑みと栗毛色の髪の毛。
男にこんな形容どうかと思うが、洋に勝る劣らずかなりの美人だ!洋より歳が若い分、可愛らしさも混じっている……とにかく綺麗な少年だ。
俺が思わず洋によく似た顔に見惚れて、じっと見つめていると、その少年もじっと俺のことを見つめ返してくた。清々しく澄んだ真っすぐな眼だ。哀しみに沈んでいつも泣いているような洋の眼とは違う。あぁこんな時にも何かにつけて洋のことを思い出す自分が、女々しく感じてしまった。
「あれ?僕、あなたと何処かで会ったような?」
「えっ」
突然そんなことを相手から言われて焦ってしまった。そして少年はしばらく考えて納得した表情を浮かべた。
「あっ……あの飛行機で僕のことを見ていませんでしたか」
「ええっ?なんで」
気づいてないと思ったのに……俺が飛行機で洋に似た容姿に目を離せなくなってしまったこと。うぉ……なんか猛烈に恥ずかしくなってきて、思わず顔を赤くして俯いてしまった。そんな俺の様子に気が付いたのか、少年はさりげなく話題を変えてくれる。
「ふふっ、何処へ行こうとしていたんですか」
「あっ」
「さっき地図見ていましたよね?よかったら僕が案内しましょうか」
「実はセントラルパークへ行こうかと思って、でも道が分からなくて」
気まずくて不愛想に答えると、彼は再びニコっと微笑んでくれた。
「あぁそれなら案内しますよ。僕もちょうど行こうと思っていたから」
「いいのか。君は詳しいのか」
「あー僕はこっちに住んでいるので」
「そうなのか」
「さぁこっちですよ」
背は俺よ10cmほど低いから、洋と同じくらいなのか。見下ろした時の目線に、また洋の消え入りそうな笑みを思い出してしまう。
「あの……僕の顔に何かついています?そんな変な顔しています?さっきから……」
真顔で聞かれて焦りまくる!そうだよな。男からそんなに真剣に見つめられたら気持ち悪いよな!
「ごっごめん。悪気はないんだ」
「いいですよ。気にしていません。でも飛行機の中でじっと僕の顔見て、その後かなりショックな顔をしたので気になっていました。実は」
「そっか……悪い、気が付いていたのか」
「そりゃ、あんなに落ち込んだ顔をされたら心に残りますよ」
「悪かった……その」
「誰かに似ていたとかそういう類でしょ。大丈夫。気にしていませんから。そういうの僕、よくあるし、あっ変な意味でないですよ、あなたは真面目そうだから」
「なっ!」
公園へ行く間も、含んだような言い方をしてクスクス笑う可愛らしい少年に、すっかりペースを掴まれてしまった。凛とした涼やかな雰囲気がある癖に、彼の笑顔がとても明るいので、つい見惚れてしまった。
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