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すれ違う 9
丈の心
俺の心
すれ違った心が、また解け合った。
心も躰も一つになるとは、このようなことを言うのだろう。
あれから、俺達は躰を何度も何度も重ねあった。
夜が明けてしまうのを惜しむかのように、お互いがお互いを求め合い続けた。
****
「丈……黙っていて悪かった」
朝になって目覚めた俺は、まだ横で目を閉じている丈に声をかけてみる。その途端、丈の漆黒の睫毛が揺れた。
「んっ洋、もう起きたのか」
「おはよう……kaiのことを、きちんと話したい」
「あぁもう怒らないよ。お仕置きなら昨日したしな」
「なっ……もうやめろよ。そういう言い方っ」
丈の奴、からかうように俺の髪を指に絡め、余裕の笑みで隣で笑っている。俺は昨日された拘束を思い出してカッと躰が熱くなる。丈が触れてくる指先が熱くて堪らない。あんな風にされても怖くても……丈だから許せる自分が確かにいた。それが昨夜よく分かった。
あんなに酷くされても躰はどんどん感じてしまい、いや、むしろいつもより強く感じてしまい……どうにかなってしまいそうだった。丈にどんどん溺れていく自分が怖い位だ。でも俺はどこまでも丈についていく。もう絶対に離れない。
「丈、俺は今、語学学校で日本語を教えているが、kaiはその生徒だったんだよ」
「kaiが生徒? おい、それ、どうしてあの日すぐに私に話さなかった?」
「えっ! あぁ…丈がそういうの嫌がるかなって思って……ホテルのルームサービスの時、俺達のこと見た、知っている相手と二人きりになるのを」
「コホンっ……まぁそれもそうだが」
丈はわざとらしい咳ばらいをして、目線を逸らした。
「ごっごめん」
「それで? 他にもあるのか」
「あぁここからが本題だ。俺はさ、この前あの武将の墓を見て来たんだ。その時、墓の石碑を写真に撮ってたまたま眺めていたら、kaiが驚いて」
そこからkaiの家が、実は俺の前世からの手紙というものを代々預かった来たという家系で、kaiはまさにその家の直系の人間だという事実を詳しく伝えた。丈もいささか信じられないような面持ちだったが、すぐに納得してくれた。
「それで今度の日曜日、一緒にkaiの家にその手紙を見に行ってくれないか」
「分かった。その手紙には私のことも書いてあるのなら、行かねば」
「俺が丈と一緒にいることを願った手紙だそうだよ。kaiはジョウという名前も知っていた。遠い昔の俺はジョウと一緒に過ごしていなかったのかな。分からないことが多いからこそ早く突き止めて、今に繋げていかないといけない気がする……」
今度の日曜日だ。二人でkaiの家へ行く約束をした。そこで一体何が分かるのか。俺はしっかりとどんな事実でも受け止めなるつもりだ。その覚悟は出来ている。
「なぁ洋、お腹空いたな。ルームサービスでも取るか」
「えっ! 嫌だよ。kaiが来るかも」
「だからだよ。kaiにはちゃんと洋が私のものだって見せつけておかないと」
「なっ!」
全く丈の奴、頭がおかしくなったのか。最初出逢った頃の、あの冷静沈着の丈からは考えられない発言だ。
「kaiを呼ぶのが嫌なら、先に洋からだな」
そういって丈に手首を掴まれたかと思うと、あっという間にシーツに仰向けに張り付けられた。
「やめろ! 丈っもう朝だよ」
「朝だからだ」
「なっ会社に遅刻するだろう?」
「朝抱くのもいい。洋の顔がよく見えるから」
逃げようとずり上がる腰を、逞しい腕で掬い取られてしまう。
こうなってしまうと俺も弱い……丈の体温の温かさに弱い。
冷えきっていた俺の心を温めてくれるのは、いつだって丈だけだから。
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