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※安志編※ 太陽の欠片 1

こちらは今日から暫く番外編に入ります。 昨日の続きは『悲しい月』60話・月虹と『月夜の湖』の49話以降に飛んでいきます。 果たして過去で待つ大事な人の元へ戻れるのか… **** 「安志、顔にやけてるぞ?」 「えっ?」    思わず自分の頬に手を当ててしまった。 「お前さ~アメリカの研修旅行から帰って来てからなんか変だぞ」 「そっそうか」 「さてはアメリカで彼女でも出来たのか」  昼休みに同僚から、いきなり突っ込まれて困惑した。 「そんなんじゃないよっ」 「安志はいい年して本当に奥手だよな」 「奥手なんじゃなくて」  この五年間は俺の手で送り出した洋のことが忘れられなかっただけだ。そして今はニューヨークで出逢った、洋の従弟の涼のことばかり考えてしまう自分に苦笑してしまった。  洋と涼……  顔立ちはよく似ているが雰囲気はまるで違った。  太陽のような屈託のない笑顔を振りまく涼。軽快で活動的な若さで満ち溢れ、時折見せる幼さがなんともいえなく可愛かった。俺が研修を終え帰国する時、流石に明るい笑顔にも影を感じた。別れ際すごく寂しそうにしていたな。でも俺はそんな風に別れを惜しんでもらえることに喜びを感じたよ。  明日だ! 涼とまた会える日がとうとうやってきた。あれから涼とは毎日のようにメールのやりとりをした。涼がこれから通う大学は俺のマンションから電車で一本で行ける、そう遠くない距離だ。必然的に涼の一人暮らしの住まいも近いことが分かり嬉しくなった。 「お疲れさま! 今日は寄るところがあるから悪いな。残業しないで」 「おー安志、珍しいな。仕事人間のお前がノー残業か。最近いいことあったって噂本当なんだな」 「どこでそんな噂? 」  そんなに顔に出ているのだろうか。恥ずかしいな。考えたら今まで大学でも社会人になってからも、女の子と付き合ったことがあるが、どちらも長続きしなかった。 『安志くんは私のこと好きじゃないでしょ。いつも違う人を見ているような気がする』  どちらも長続きせずに、そう言われ振られてしまった。本当に俺は隠しても隠しても諦めようと思っても……ずっと洋一筋だったんだなぁ。  洋は今、あの逃避行した最初の国で丈と仲良く暮らしているらしい。義父との問題も和解したと聞いている。そんな洋に会いに行こうかとも思ったが、未だ心に小さなわだかまりがある俺は洋と会うのが怖かった。  丈のもとへ送り出したのは俺だ。  一番の友人でいようと言ったのも俺だ。  別れのキスもさせてもらった。  あの時すべてを吹っ切ったはずなのに、洋がいなくなればまた洋のことを思い出し、幸せそうに丈と暮らしている姿をわざわざ見にいくのも憚られた。俺は本当に狭い心の持ち主だ。呆れてしまう。  すっかり疎遠になってしまった俺と洋の関係。恋をした相手との友情って難しいのかな……もやもやとした気持ちで年月だけが過ぎて行った。  そんな俺に青天の霹靂とでも言うかのような出来事が出張先のニューヨークで起きた。涼との偶然の出会いは俺の迷いをすべて拭い去ってくれる程、衝撃的だった。  まるで神様が俺に涼を与えてくれたような錯覚に陥る……洋によく似た涼。  最初は確かに洋の面影を求めていたが、涼と触れ合ううちに、洋にはない活発で明るい雰囲気にどんどん心惹かれて行った。 ****  仕事帰りに俺は明日再会する涼に何か贈り物をしたくなり、デパートをうろついていた。  さて、どうするか。贈り物なんてちゃんと選んだことないんだよな。女の子は欲しいものをストレートにリクエストしてくるので、それを買えばよかったのだが、自分から積極的に選ぶのは初めてで、緊張する。  ぼんやりとアクセサリーを眺めていると、店員さんから声を掛けられた。 「贈りものですか」 「あっはい」 「お誕生日か何かでしょうか」 「まぁ、なんていうか……あっそうだ!大事な人の入学祝いなんです」 「そうなんですね。おめでとうございます!お相手の女性はどんなお色がお好きでしょうか」  相手は女性……か。  そりゃそうだよな。こんな華奢なアクセサリーを身に着けるのは。でもほっそりとしたシルバーのアクセサリーは、若く美しい涼の健康的な肌にも似合いそうだなと思ってしまった。 「……これを見せてください」

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