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暁の星 6
喉元を気にしている涼。
俺は思い切って手を伸ばし、きつく締められたネクタイに指をかけ、すっと解いてやった。
「ふぅ楽になった」
「お前なぁ……これ、きつく締めすぎ」
「そうなの? 加減が難しいね」
首を抑え、にこっと笑う涼のほっとした表情に心が躍ってしまう。
「ふぅまだ暑いね」
ネクタイを取ったついでにと思ったのか、涼が自ら襟元のボタンを上から二つ目まで外した。
うぉ~待て待て。そこでストップ!
このまま俺は涼を床に押し倒して、ワイシャツのボタンをすべて外し、その肌に口づけして……などと妄想してしまうじゃないか!
駄目だ駄目だ。
ぐっと拳に力を入れて、淫らな妄想を追い払う。
話を逸らそう! とにかくこのままじゃまずい。そう思いソウルの出張の話を切り出した。
「そうなんだ。じゃあ来週からソウルに出張するの? 」
「あぁそういうわけだ」
「いいな。僕も付いて行きたかったな。洋兄さんのこと一緒に探したかったな」
「おいおい、涼は大学がスタートしたばかりだから無理だろ。まずは俺が一人で行って、洋の手掛かりを探してくるから」
「うん分かった。大人しく待ってるよ」
「あぁ大人しくなっ。それで涼はクラブとか決めたのか」
「そうだね、向こうではずっと陸上部だったからそうしようとは思っているけれども、他にもいろいろ面白そうなのがあったので、明日からいろいろ見学してみるよ」
「あぁ大学生活をしっかり楽しめよ」
甘いあんみつを涼と一緒に頬張れば、幸せな甘い気持ちで心まで満たされる。
ネクタイを外して寛いだ涼の姿はとても魅惑的だ。襟元が開き綺麗な鎖骨が覗いている。喋ったり食べたりするたびに上下する喉仏までが綺麗に見える。
キラキラだな涼は……どこもかしこも。
「涼、今日は遅くならないように自分の家に戻れよ」
「えっ帰らなくちゃダメ? 」
またまたそんなことを……
「だって、お前さ、これじゃ一緒に住んでいるみたいじゃないか。涼はまだ十代だしもっと健全な生活をしろ」
「健全って?」
涼はくすっと笑っていた。
まぁ俺がこんなこと言うのも変か。
結局また涼は俺の部屋に泊まっていった。
緊張していて疲れていたんだろう。俺がシャワーを終え部屋に戻ったら、涼はソファで寝息を立てていた。
やっぱり、まだまだお子様だな。
涼をベッドに移し、足元に脱ぎ散らかしたスーツもきちんとハンガーにかけてやる。全くスーツの扱いに慣れていないから、皺くちゃじゃないか。明日大学行くのに、このスーツじゃ無理だな。
俺は大学に着ていけそうな手持ちの服を枕元に用意してやり、ソファに寝そべった。
手の届くところにいる俺の大事な人なんだ。
ゆっくり行こう。
そう呟いて自分を納得させるが、今宵も長い夜になりそうだ。
****
「よう、月乃!」
「あっ山岡おはよう」
大学へ行く電車の中で、昨日の入学式で知りあった山岡 航太から声をかけられた。
「月乃、お前どこに住んでるの?」
「自由が丘だよ」
「へぇ、でも今日はなんで武蔵小杉から乗って来たんだ? 」
「えっあぁ……友達の家に泊まっちゃって」
「へぇだから今日の洋服、少し大きいよなぁ」
「あぁこれ? 昨日さスーツのまま遊びに行ったから失敗したよ。着替えがなくて借りた」
「……ふーん、なんか変」
「えっ?」
「若い奴が着る服とは思えないな……なぁ友人って言うけど、かなり年上だろ?」
「えっひどいな。そんなことない!」
「月乃? 何怒ってる?むきになるなよ」
昨日は安志さんに甘えてまた泊まらせてもらって、それで洋服まで借りてしまって悪かったかな。あんな時間から電車に乗って家に戻るのは億劫だったし、一目、安志さんに会ってしまうと離れたくなくて……それに一人の部屋は思いの外寂しかったから。
ニューヨークでは、いつも両親や友達とにぎやかに過ごしていたから、本当のことを言うと少し心細い。
ハァ……僕は甘ったれな人間だな。安志さんを困らせてしまうのに、日本に来た途端、毎日のように会いたくなってしまうなんて。
でもそんな安志さんが来週には出張で一週間もいないのか。これを機に僕はもう少し自立しないといけない。
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