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暁の星 12
遠くに人の気配がしたので、俺は慌てて涼を抱きしめていた腕を離した。
「ごめんっ」
「……?」
「こんな外で悪かった」
「大丈夫、この位のハグは向こうじゃ普通だよ」
「うっ……」
ってことは、涼はこんな風にアメリカでは、周りの奴に簡単に躰を触れさせていたのか。なんて考えるとちょっと、いや、かなり妬いてしまう。
「安志さん、どうしたの?」
「いやっなんでもない」
「あっ……でも……ここは日本だからもうしないよ」
「えっ? 」
「安志さん以外とはもうしない」
そうきっぱり言い切る涼が、なんだか必死で可愛い。そんな風に言ってもらえると、ますます俺はいい気分になってしまう。
ローズヨコハマの薔薇の香りはとても強く、次第に闇に溶け込んでいく俺たちを甘美な雰囲気に誘っていく。駄目だ。人が近くにいるし……こんな所でって思うのに、どうしても涼にもっと触れたくなってしまう。
俺が無言で俯いたままだったので、いや正確には欲情を抑え込むのに必死だったのだが……涼が少し不安になったのだろう、心細そうな声を発した。
「安志さん、もしかして怒った? 」
「いや、俺だけなんて言ってもらえたのが嬉しくて……その、キスしたくなって困っている」
涼には素直な気持ちをそのまま伝えられるんだ。嬉しいことも悲しいことも困っていることもすべて……そのままに。
「良かった。うん、いいよ」
そう言いながら、涼は俺の肩にそっと手をつき少しだけ背伸びして、ちゅっと可愛らしい短いキスをしてくれた。
驚いて見ると、涼の耳が赤く染まっていた。こんな場所で涼の方からしてくれるなんて!
涼も俺に感じてくれているのだろうか。俺が涼に感じるような高揚感を。
涼は感情を押し隠すように顔を俯かせ、鞄からスマホを取り出した。
「そうだ!安志さん、写真撮ろう!」
「あっそうだな」
甘い香りを漂わすローズヨコハマの黄色い薔薇を背景に、二人並んで写真を撮った。手で持って撮ったので、すごいアップで照れる。
「あと安志さん一人のも欲しい」
「おっおう!」
そんな風に言われても、センスがない俺はどうしたものか迷ってしまう。カメラを意識すればするほど、躰が動かなくなっていく。
「ふっ……安志さん緊張してる? もっと自然に、じゃあ勝手に撮ってもいい? 」
「はぁ~涼、お前慣れすぎっ。ぎこちなくなっちゃうよ……俺」
「えっそうかな? 向こうでよく写真撮られていたから」
「えっ? 誰に」
「あっ同級生とかにだよ。ふっ深い意味ないよ」
必死に焦って言葉を伝えようとする涼が可愛い。うーやっぱり涼みたいに綺麗で可愛い同級生がいたら、男も女も放って置かないよな。それは認めるから仕方がない。
カシャッ
「ん? あっ今撮ったな」
考え込んでいる俺の姿が、涼のカメラに収まったようだ。
「安志さん今の横顔素敵だったよ!」
「涼、よく考えたらこれって日本に来て初めてのデートだな」
「うわっ!そういうことになるね」
そうだ。お互いの家を行き来はしたが、外でこんな風に会うのは初めてだ。
涼と俺の初めて。
これからどんな初めてが積み重なっていくのだろうか。
一つ一つ大事にしていきたい。
そんな風に思える大切な相手と巡り合えたことに感謝する。
ずっとずっと待ち望んで来た俺の『暁の星』は、涼……君のことだ。
「さぁ行くぞ」
自然ともう一度手を握り合い、夜景が広がる公園へと歩き出した。
『暁の星』 了
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