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変わっていく 5

 あと一時間で製薬会社の新薬発表の国際会議が終わる。  通訳の仕事は順調に進んでいた。  問題はこの後の時間……  どうかすべてが上手くいくように、そう願っている。 **** 「洋、駄目だ。君にそんなことさせられないっ!なんでそんなことを言うんだっ!」 「丈……分かってくれ!これは俺にしかできないことだ。重役は手強いよ。俺が歯向かえば歯向かう程、卑怯な手段を使ってくると思う。だからこそ一発で倒せる決定的な証拠が欲しい。絶対に揺るがない証拠を得るには、俺がおとりになるのが一番効率がいい……」  俺はおとりになって、予定通り重役の部屋に行くことにした。そして抱かれる寸前で、Kaiと安志に手助けしてもらう。  卑怯な写真で脅してくる重役に勝つには、逆に重役が従わざる得ない証拠写真を撮ること。  それは……俺の身を投げ出すことのようで、俺の身を守ることでもある。  卑怯な相手というのは、本当にしつこくて、時に正論で叶わないこともある。それを俺はよく知っている。  もう本当にこれで終わりにしたいから、多少の犠牲は必要だ。 「洋、それは危険すぎる! 何かあってからでは遅いっ」 「大丈夫だ。俺には丈がいる。そして安志もKaiもサポートしてくれる。もう恐れないよ」  この計画には、丈はもちろん、安志もKaiも唖然としていた。 「なぁ洋、他にも方法はあるだろう? 何故一番危険な道を選ぶ? 」  誰もが反対した。でもこれは最初から決めていたことだ。  今回のことは、俺が原因だ。俺自身が隠れずに、俺自身で解決しないと駄目だ。  どうか俺を信じてくれ。  そう必死に説得し、夜も更けるころになって、なんとか納得してもらった。  俺たちの間に、緊張が走った。 **** 「これにて閉会となります」  会議が無事終了した。人々の拍手と騒めきの中、重役がつかつかと近づいて来て、俺はホテルのキーを握らされた。 「楽しみにしているぞ。二十時に来い」 「……」  嫌な汗が流れるが、もう止められない。進まないと終わらない。  1102号室。  二十時まで残された時間は約一時間。重役が他の社員と軽い打ち上げに行ったので、すぐに待機している安志とKaiに連絡を取った。  丈も後から来てくれるはずだ。タイミング悪く緊急で手術が入ってしまい今ここにいないのが心細いが、俺の心の中にはちゃんと丈がいる。  そう思い胸元の月輪のネックレスを握りしめる。  失敗するわけにはいかない。  タイミングが大事だ。  安志には写真を奪うことと、重役の携帯やPCにデータで残っていないか、探してもらう。Kaiには重役が男を抱こうとしている証拠写真を撮ってもらう。  調べたら……重役は日本では表向きは愛妻家で通っていた。重役の奥さんは大物政治家の娘なので、絶対にスキャンダルはあってはならない立場だ。  安志に調べてもらった所、重役はかなりの金を奥さんの実家に融資してもらって、最近、白金に豪邸を建ててばかりだった。  重役の弱みを握ればいい。だがそれ以上の恨みを買うつもりはない。  丈や安志、Kaiにそんなことは甘い、徹底的に潰せ、法的に訴えろと怒られたが、俺は知っている。  恨みは更なる恨みを招いて、また災いとなって俺の元に火の粉となって降りかかってくることを。  俺の写真と同等の対価を払ってもらえればいいんだ。俺はもう必要以上の争いを望まない。  この地で丈と静かに穏やかに暮らしたいだけだから。 「洋、これを持っていけ。ここを押せばいい」 「ありがとう」 「すぐに駆けつける」    安志から指輪型の小さな機器を受け取った。これは突入のタイミングを直接信号で送るものだ。 「洋、1102号室のマスターキーは俺が持って来るから安心しろ。万が一に備えてドアをこじ開ける道具もな。本当は客室に事前に防犯カメラを設置出来たらいいんだが……すまない。」 「大丈夫だ。俺もうまくやってみる。丈や皆が悲しむようなことは絶対にしないから、信じてくれ」 「洋……俺たちも洋を信じてる。そして俺たちを信じてくれてありがとう」 「うん、信頼しているからこそ出来る計画だよ。もう時間だ……行くよ」  この一歩。  自分で選んだ。  後悔していない。  計画を成功させることだけを考えろ。  自分で断ち切りたい。  この悪縁を。

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