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違う世界に 1

「安志さん……そんなに怒らないで」  シュンと頭をうなだれた涼が隣に座っている。 「それでその撮影とやらは上手くいったのか」 「あっ……うん、相手の人もスタッフの人もいい人達で順調に終わったよ。なんか本当にごめん。急にこんな展開になるなんて」 「まぁな、水族館でまさかあんなことが起こるなんて思わなかった」  あの日……洋を見送ってから涼を水族館に連れて行ったのが、まさかこんな展開になるなんて。自分が取った行動を悔やんでも仕方がないのだが、やっぱり後悔している。 ****  羽田空港から京浜急行であっという間に品川駅に着いた。駅前の水族館はかなりお洒落でデートにおすすめだと同僚が話していたのを思い出して、涼と一緒に行ってみたくなった。 「わぁすごいお洒落な水族館だね。こんな所知っているなんて流石安志さんだ」 「おお」  中ではちょうど冬の企画をやっていた。渡されたリーフレットをそのまま涼に渡して、一緒に見た。 「へぇ」  パンフレットには随分とロマンチックなことが書かれていた。 … 雪と氷に包まれた透明感ある氷や雪をモチーフに 氷の海に幻想的な雪景色が広がるイルカの荘厳なパフォーマンスが繰り広げられます。まるでスノードームの中へ入り込んだかのような錯覚をお楽しみください。 … 「さぁ入ってみよう」 「うん、わぁ綺麗だ」  涼は軽い足取りで水槽の前に走り寄って行った。水槽の中を夢中で覗き込む横顔が好奇心で輝いていて、涼の若さと美しさが溢れ出ていた。なるほど、ここは俺にはとても似合わないが、涼にはよく似合う場所だ。  水槽の周りを囲む壁面には美しいクリスタルが輝いて、頭上から雪の結晶がキラキラと降りそそぐような演出になっている。その氷をイメージしたブルーやシルバーの魚が泳ぐ水槽の前に涼が立てば、まるで氷の国の王子様のように美しく気高く見えた。 「ねっあの子……綺麗」 「すっごく美形だよね」  そんな涼の姿を目を細めて見ていると、空港でも聴いた周りの騒めく声がまた耳に届いてくる。  はぁ……またか。  もともととんでもなく綺麗な顔立ちで、立っているだけで目を引くことは分かっていたが、ここ最近の涼はなんだか色気が出て来てはっとすることが多い。なんだか無性に心配になってしまう。  涼を誰かに取られないか。俺達の間に何か邪魔が入らないか……そんな嫌な予感があった。     幸せすぎるって怖いということを、俺は初めて知った。

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