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アクシデント 4
救急隊がすぐに到着して、慌ただしく涼の躰に応急処置を施していった。
俺はただ茫然と、その光景を見つめることしか出来ない。どうやら出血は頭部にカメラの破片があたったのが原因らしかった。でもその時、頭を強く打ったらしく、まだ意識が戻らないようだ。何より真っ青な涼の顔色が心配で心配で堪らない。
ついさっきまで朗らかに喋っていたのに……まるで紅をさしたように血色が良かった唇は土気色になり顔には血が流れ、花のように綻んでいた頬を汚していた。ぞくっと震える光景だ。
「よし。では担架に乗せて……動かないように固定して」
俺は担架に乗せられて運ばれていく涼へ咄嗟に手を伸ばし、脱力したその手をぎゅっと握りしめてやった。涼が俺を突き飛ばしてくれなかったら、今頃この担架に乗っているのは俺だったはずだ。
「涼、なんで俺を庇って……」
「君っ、ちょっと離れて…誰が付き添いの方ですか」
救急隊に離れるように指示されたが、一人で行かせるわけにはいかない。
「俺です! 俺が付き添います。一緒に救急車に乗ります」
「Soilさん、私が行きますから」
「いや涼は俺を庇ったんだ。頼むから同乗させてくれ」
涼のマネージャーに頼み込んで、なんとか付き添いの一人にさせてもらった。救急車の中でも緊張は続いていた。心電図に異常はないようだったが、意識がまだ戻っていなかった。
「患者の名前は、月乃 涼 18歳 血液型 O型で間違いありませんね」
「はい、そうです」
マネージャーが汗をかきながら応対していた。
「それで、あなた方はこの男性の身内の方ですか」
「いえ仕事先の……あっそうだ! 涼くんの緊急連絡先を預かっていたんだった」
「じゃあ身内の方の連絡先が分かりますか。すぐに教えて下さい」
「分かります。えっと……あっこれです、日本での連絡先になっているこの方にお願いします」
「了解しました。すぐに電話させてもらいますので、読み上げて下さい」
マネージャーは持ち歩いている手帳から、涼の身内の連絡先を読み上げた。そういえば涼の両親はアメリカにいるんだよな。一体どうするんだ?親戚でもいるのか。
「携帯は080-3……で、えっと名前はサイガ ヨウさんという方です」
えっ……
ドクリと心臓が奇妙な音を立てた。歯車が軋むような、急ブレーキを踏むような不協和音だ。おいっ今なんて言った?『サイガ』だって? まさか……嫌な予感が満ちてくる。
「ちょっとそれ見せろ」
「あっ駄目ですよ。個人情報が」
俺は涼のマネージャーの手帳を奪い取って連絡先を確認した。
「崔加 洋」
はっきりとそこには、俺がずっと探していた奴の名前が書いてあった。
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