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隠し事 8
「もしもし」
「あっ丈か」
「流兄さんが職場に電話なんて珍しいですね」
「あぁそういえばそうだな。だが可愛い弟に電話して何が悪い」
「くくっ相変わらずですね。全く……はぁ、私は可愛いって柄じゃありませよ。それより何か」
「おお! あのな洋くんのことなんだが……」
「洋がどうかしましたか。今日は仕事もなくそちらにいるはずですが」
「そうなんだが、さっき抹茶の点前を教えてあげる約束をしていたので、洋くんの部屋の前まで行ったら、深刻そうに誰かと電話をしていてな」
「一体誰とです? 」
ドクンと心臓がの奥が痛み嫌な予感がした。今日は寺にいるというので安心していたのに。確かに昨日から洋の様子が少しおかしかった。涼くんが事故にあって動揺しているだけだど洋は言っていたが、本当にそれだけだったのだろうか。今更ながら後悔が募ってしまう。
「いや、誰とかは分からない。だが、その後、急に出かけるって言ってさ、従兄弟の涼くんのことでと言っていたが、何となく気になってな」
「それで洋は今どこに?」
「あぁ悪い!俺も急に檀家さんが見えて、応対しているうちに出掛けてしまっていて。なぁ丈、本当に大丈夫か。お前に連絡してから行くようにとアドバイスしたが、やっぱりあの調子では何も言わないで出掛けたんだな」
「分かりました。ちょっと電話してみます。兄さん教えてくれてありがとうございます」
「いや、洋くんは可愛いし、もう我が家の一員だからな。礼を言う程のことじゃないよ。もう一時間以上経っているから急げよ」
洋は本当に危なっかしい。
どうしてこんなに私に心配ばかりかけるんだ。
どうしてもっと私を信頼して頼ってくれない?
だが今は怒っている場合ではない。まずは洋の行先を突き止めないと。
一体何があった…?
ここ最近のことを思い返してみると、一点だけ気になることがあった。あれは数日前、帰り道に車中で交わした会話だ。頭の中の記憶を丁寧に辿り、洋が話した事を一字一句間違えないように思い出してみた。
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「丈……あのさ……俺ね、今日、翻訳の先生の使いで書類を受け取りに出版社に行ったんだ。そこで涼の知り合いの編集者に偶然会って。その人、俺の名字を聞いて何故だか、すごく驚いていた。一体何故だろうか気になっているんだ」
「そうか、知り合いだったのか」
「いや初対面だと思う」
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洋の名字を聞いて驚いたということは、まさかとは思うが、また洋の義父の『崔加氏』に関係しているのか。一体彼はいつまで洋を苦しめるつもりなんだ。逃げても逃げても彼の影は追って来る。そして洋を追い詰めていく。いい加減に洋を解放してやってくれ。
洋、そうなのか。だからまた話せなかったのか。涼くんの知り合いの編集者というのは誰だ? 彼も絡んでいる問題なのか。とにかくまずは涼くんに連絡を取ってみよう。あぁでも彼は今入院中だ。果たして電話がつながるか。
焦りは焦りを呼ぶ。
こうしている間にも洋がまた誰かに脅されていないか心配で堪らない。同時に、いつだって洋の危機に役に立たない自分を不甲斐なく感じてしまう。
どうして洋は学んでくれないのか。
もう洋は一人ではないのだから、無理して一人で解決しようとしなくてもいいということを。洋を大切に守りたいと思っている人が周りにちゃんといるのに……
私は、洋を『崔加氏』というしがらみから解放してやりたい。
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