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隠し事 13
「痛っ……離してくれっ!」
陸さんに腕を掴まれて地上へと階段を引きずられるように上がると、階段の非常ドアが向こうからバタンと突然開き、日が差し込む白い壁に囲まれたロビーがぱっと開けた。
その先に、俺たちのことを凝視し驚愕した表情を浮かべながら立っていたのは……
「あっ」
「洋っ……その姿なんだよっ」
ロビーに怒涛のように鳴り響く安志の声。顔を真っ赤にして躰を怒りで震わせて、こんなに感情を露わにしてお前が怒るなんて……何故だ?
あっ……もしかして俺のこの乱れた着衣のせいか。まずい! 安志は誤解している。
「お前、洋に何したんだ?」
「待て! これには理由がっ」
そう制止する間もなく、安志の鋭い拳が陸さん目掛けて振り下ろされそうになっていた。
「駄目だっ! 陸さんはモデルだ! 顔を傷つけるな!」
それに安志……お前がこんな風に人を感情のままに殴るなんて絶対に駄目だ。俺のせいでお前が汚れることはないっ!
そう思うと体が飛ぶように自然に動いていた。
陸さんを庇うように、その前へと……盾となるように……
その瞬間、昨日こうやって陸さんのことを庇ったであろう涼の感情が飛び込んで来た。
守りたい! 僕が……俺が……
メキッ──
骨が異常な音を立てるほど、安志のパンチをもろに食らってしまった。激痛なんてもんじゃない苦痛が頬から頭にかけて抜けて行った。
「あうっ」
そのまま後方にすっ飛んだ拍子に、壁に頭もぶつけて意識が飛びそうになっていく。
「うわっ! 洋っなんでこいつを庇うんだっ! おいっ洋、洋っしっかりしろ」
安志が俺の前に飛ぶようにやって来て、しゃがみこんで心配そうに躰をチェックしていく。その温もりのおかげで意識を飛ばさずに済んだようだった。
(安志……大丈夫だ。心配するなよ……俺は何もなかった。だから落ち着けよ)
心の中ではそう答えたつもりだが、頬が痛くて口を動かせていなかった。
「洋、ごめん、本当に! 俺がお前を傷つけるなんて……どこが痛い? 頭をぶつけたのか」
俺を見下ろす安志の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
こんなに焦って後悔して……大丈夫だ。安志…この位なんてことない。こんなにお前が心配してくれたんだってむしろ嬉しい位だ。本当に……これというのも全部俺が悪いんだ。
口の中が切れたようで、鉄臭い味が口腔内を占めている。
「……大丈夫だ……なにも……されていない……なにも、なかった」
そうやっとの思いで口にすると、口の端から血が流れ出て、顎を伝っていくのを感じた。
「洋、血が! 口の中切ったんだなっ。あぁ俺はなんてことを!」
俺の頭の中は思いのほか冷静で、血で汚してしまうと思い、真っ白な床に目をやると、陸さんの影が近づいてくるのを感じた。
「くそっサイガヨウ……お前なんで俺を庇った? 」
見上げると陸さんが拳を震えさせながら立っていた。
「……陸さん……怪我なかった? 」
「はっ? お前は馬鹿か。俺がお前を傷つけようとしたんだぜ? お人好しにも程がある」
「陸さん……俺は知らなかったとはいえ、あなたに償いきれないことをした……もう俺のせいで誰も傷ついて欲しくない」
俺の上半身を支えながら、頬を擦ってくれていた安志が不思議そうに聞いて来た。
「おい洋? なんで庇うんだ。あいつがお前をこんな姿にしたんだろう? お前を辱しめようとしたのか、また……」
「安志! 言うなっ! それ以上は絶対にやめてくれ。それに……これは自分で脱いだ。撮影のために……」
安志が続けようとした言葉を慌てて制止した。
駄目だ。絶対に陸さんには知られたなくない。
「おい……また? 辱め? って一体どういう意味だよ? それにお前、サイガヨウとどういう関係なんだ? 」
「なんだよ! 偉そうにっ。洋は俺の大事な幼馴染であり親友だ! あんたが涼の慕っている先輩だろうが……有名なモデルだろうがそんなこと関係ないっ! 洋をこれ以上傷つける奴は許せない!」
またSoilさんに殴りかる素振りを安志がするので、その腕を慌てて掴んだ。
「安志、駄目だ! 手をあげるな」
「洋っ離せよ! お前が殴れないなら俺が代わりにやってやる!」
「駄目だっ! 安志っ……理由があるっ」
「なんだよちゃんと話せよ、さもないとっ」
冷静さを欠いてしまった安志の感情を静めるために、本当はこの場で告げたくはないことを告げる決心がついた。
「よく聞いてくれ。Soilさんは、陸さんと言って……俺の義父の、実の息子だったんだよ」
「えっ……なんだって……」
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