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上弦の月 3

 それってさ、つまり洋がアメリカで俺のことを思い出してくれたっていうことだよな。涼が話してくれたクリームパンを通じたエピソードに、思わず胸が高鳴ってしまった。  あの頃の俺……  高校の階段上で傷ついた洋に対して更に突き落とすような行為をして、気まずい別れ方をしてしまったせいで、投げやりな日々だった。急に姿を消しアメリカへ行ってしまった洋は、もう俺のことなんて思い出したくもないのだろうと勝手に決めつけ自己嫌悪に陥っていたし、洋のいない高校に通うのが虚しかった。  洋がアメリカで孤独な日々を送っていたのは、俺も後に聞いたので理解している。そんな洋にとって涼と船上で会うのは、貴重で安らげる時間だったのだろう。そんな中で俺のことをふと思い出してくれていた。そう思うだけで素直に嬉しかったし、そんな時間を作ってくれた涼のことがますます愛おしくなった。  今日クリームパンを買ってきて良かった。まさか涼からこんなエピソードをプレゼントしてもらえるなんて思わなかったから。 「安志さん、なんだか嬉しそうな顔しているね」  うわっ変だったかな。無意識に頬が緩んでいたのか。感極まって無言になった俺のことを、涼が不思議そうにのぞき込んで来た。  その唇の横にはあの日の洋のように、ちょんっとカスタードクリームがついていた。そのあどけない表情が、中学生の頃の洋を彷彿させる。本当にこの従兄弟達はどこまでも同じ顔で俺のことを誘惑してくるよな。  だが一つ、昔とは違うことがある。  今の俺はこの可愛い唇に、堂々とキスをしてもいいのだ。あの日、舐めてみたかった場所に、俺はそっと口を近づけた。 「えっ? わっ! 」  涼が驚いて目を丸くしているのもお構いなしに、舌先でクリームをぺろっと舐めとってやると、涼は慌てて唇の横を自分の指先で確かめ、指先に舐めきれなかったクリームが微かについたのを見て、恥ずかしそうに頬を赤らめた。 「わー参ったな。僕、またクリームをつけていた? はぁ……成長しないな、あの頃から」 「くくっ。あぁ子供みたいについていた。でも味は、もう大人の味だな」 「安志さんってばっ」 「甘くておいしかったから、もう少し味見していいか」  涼の両肩をしっかり押さえた上で、今度は唇の端ではなく全体を包み込むように舐めた。 舌先をその割れ目から口腔内に入り込み、かき回す様に吸っていく。 「あっ……んん…安志さん」  ん? 待てよ……この展開は前回と同じだな。俺も節操がない。この前お預けを食らったせいか、今日はもう本当に我慢できなくなりそうだ。  このままどこかへ攫ってしまい、涼を思う存分に抱きつくしたい。そんな淫らな欲求がムラムラと駆け上がって来る。  若い涼の方も同じ気持ちのようで、あっという間に高ぶってきているのが、パジャマの薄い生地のせいで目で見ても分かってしまう。腰をもぞもぞと揺らしながら、俺の肩に腕をまわし、もっと欲しそうな素振りをしてくれる。  くっ……こんな風に甘えられたんじゃ、俺の下半身も持ちそうにない。 「安志さん……僕……」 「なんだ?」 「……今日はちゃんと……して…欲しい」  ブチっと何かが吹っ飛ぶ音がした。 「涼……可愛いこと言って煽るなよ。この前辛かっただろ?あの後一人でしたのか」 「なっなにを言うんだよ。安志さんエロイ…!」 「ははっ、俺は辛かった。あんな中途半端で帰るの」 「僕も……その……夜眠れなかったよっ」  病室でまずいか……そんな理性も涼への口づけを鎖骨に降ろした瞬間に吹っ飛んでしまった。パジャマの裾から手のひらを忍ばせ、脇腹をすっと撫であげ、その上についている小さな突起を指の腹で擦るようにいじれば、涼の口からは、色っぽい声が零れ落ちた。 「んっ……ん…」  今日は頼むから邪魔が入るなよ。  そう念じながら、涼を再びベッドのシーツの上に押し倒した。

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