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重なれば満月に 4
北鎌倉・月影寺にて
「兄さん、実は……洋は五年前に、育ての親……つまり義父からレイプされています」
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二人の兄は私の告白に一瞬固まったが、まるでそれを予期していたかのように、不思議と落ち着いていた。
「そうか……やはりな」
「翠兄さん、案じていた通りでしたね」
翠兄さんと流兄さんは顔を見合わせ頷き合った。
「丈、勇気を出して話してくれてありがとう。実は……私たちは洋くんに会った時から不思議な縁を感じていたのだよ」
「それは一体どういうことです? 」
「まぁ驚かないで、この写真を見てみろ」
翠兄さんが文机の箱から一枚の古びた写真を取り出して来た。セピア色のその写真には一人の青年が写っていた。驚いたことに、その青年の顔は……
「えっ……なんだ? 」
思わず絶句してしまった。この青年はあまりに洋に似ている。背格好も顔立ちも、何もかも似ている。なんだこれは? 一体どういうことだ。過去からの縁は他にもあったということなのか。心臓が途端に早鐘を打ち出す。
「に……いさん、これは誰ですか。洋に似すぎています」
「あぁそうだろう。実は私たちもお前が初めて洋くんをこの家に連れて来た時、顔を見て、息を呑んだ。この写真は遠い昔の大正時代のものだ。この青年の名は夕凪(ゆうなぎ)というそうだ」
翠兄さんが写真を裏返すと墨で『大正9年 夕凪 月影寺の庭園にて 』と記されていた。
「『夕凪』とは一体誰です?」
「そうだな…これは我が家に代々伝わる話でな……私と流に直々に父から伝えられたものだ。お前は早くから家を出ていたので聞いていなかったのだが。この青年は夕凪と言って理由があって我が寺で暫くの間、匿っていた人物だそうだ。この青年の母親の墓が我が寺にあるのが縁らしいが…」
「あの……よく事情が分かりません。何故この青年はこんなに洋に似ているのか。それを教えてくれませんか」
「私たちも詳しいことは分からないが、お前も知っているようにこの寺は駆け込み寺と言われている。その縁あってこの青年が赤ん坊の時に母親が事情があって赤子を抱いて逃げ込んで来たそうだ。母親の方は産後の肥立ちが悪く間もなくなくなり、赤子も小さいうちに遠くへ里子に出されてしまったそうだ。私たちが知っているのはそれだけなんだ。洋くんに何故顔が似ているのかは分からない」
「洋の血縁者なのですか。その母親はどこから来たのですか」
心臓がバクバクしてくる。
「京都と聞いているが、それ以上のことは分からない」
「では……この夕凪という青年は、赤子で里子に出されたそうなのに、何故大人になってここに舞い戻ったのですか」
まったく分からないことだらけだ。だが何か洋に通じるものを感じてしょうがない。
「落ち着け……丈。お前は先ほど洋くんが育ての親にレイプされてしまった過去があると言ったよな。そのことに対して、何故私たちが驚かなかったか分かるか」
「分かりません……見当もつかないです」
「それは……この青年もだったそうだからだ」
なんてことだ。そうか……古びたセピア色の写真に中に写る、洋に似た美しく品のある和服を着た青年。彼の哀し気な目を私は知っている。そうだ……あの頃の洋の目。今も時折見せる、躰を理不尽に踏みにじられた経験がある人の目だ。
「そしてその母親の臨終の願いを、私たちは代々受け伝えて来たのだ。それはだな」
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私のように憂き目に遭った人が、きっとまたこの寺にやってきます。それが男性でも女性でもどうか……無条件に助けてあげてください。私みたいにこの世を去ることのないよう、どうか……どうかお願いします。
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「……だからだ。洋くんがこの青年に似ている時から嫌な予感がした。お前はなかなか話してくれないし、洋くんに直接聞ける内容ではないので、今日までそっと様子を見ていたのだ」
「そうだったのですか」
確かに私がいきなり男の恋人を連れて来ても、父も兄も誰も反対せずにすんなりと受け入れてくれた。あまりにすんなりと事が運んで拍子抜けした程だった。それにはこんな事情があったとは!
「そうだったのですね。不思議な縁を感じます……で、夕凪という青年の母の墓はどこにあるのですか。その名前は何というのですか」
「名前は…」
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こんばんは。志生帆 海です。
輪廻転生やタイムトリップが絡んだ奇想天外な話にいつもお付き合いくださいまして、ありがとうございます。物語はまた一歩進んで、別途連載をしている『夕凪の空 京の香り』という話と繋がり始めました。どうぞよろしくお願いします。
いつもリアクションボタンを押してくださる方へお礼を♡更新の励みになっています。どなたか分かりませんが、いつもありがとうございます。読んでいただけて嬉しいです。
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