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光線 4

 大柄な男性を殴りつけた衝撃でエレベーターが大きく横揺れして、そのまま10階で停まってしまった。そして緊急停止のため、ドアがそこで開いてしまった。  相手は体格も体力も俺よりはるかに上の外人なので、やはり一撃では済まなかったようだ。 すぐにユラリと起き上がって来て、今度は逆に殴られそうになる。 「Don't be ridiculous!」(てめぇふざけるな!)  くそっ!まずいな。  俺は身の危険を感じ、エレベーターからホテルの廊下に逃げる。 「Drop dead!」(くたばれ!)  今度は激しく殴られ、俺の方が廊下の壁に吹っ飛んでしまった。その衝撃音で、客室から人が出て来て悲鳴をあげた。 「What are you staring at !?」(何見てんだ?)  廊下に倒れこんだまま黒人の男に馬乗りにされ、再び腹を激しく殴られる。 「うっ!」 「Oh my god!」(なんてこと!) 「Please come early!」(早く来て!)  女性の悲鳴が聞こえ、それから誰かを呼ぶ声も聞こえた。  くそっ、こいつを洋のもとへ行かすわけには行かない。  ガバッと渾身の力を込めて、起き上がり今度は俺が殴り掛かる。もみくちゃになっていると、突然誰かが間に入って来た。殴られる寸前のパンチを手で受け止め、俺を庇ってくれた。  どうやら加勢してくれたようだ。助かった!俺一人じゃ無理だった。 「What is it, you? Come on, make your move. I'll take you all on at once.」 (なんだお前?いいぜ、まとめて相手してやるぜ、かかってこい!) 「君、早くここから逃げて。あとは俺が!」  加勢してくれた男性は強かった。強い奴だった。闘いに慣れているようで、あっという間に優勢になっていった。  だが…… 「さぁ早く行って!」  もう一度促され覚悟を決めた。 「ありがとう! すまない! この部屋に早く行かないといけないんだ! あいつを助けないと」  足元に落ちていたルームキーを拾い上げて、助けてくれた相手に見せてから、俺は一気に階段を駆け上がった。 「分かった! 早く行ってくれ! 」  そんな声が背後から聞こえた。  階段を駆け上がり、はぁはぁと息を切らして後ろを振り返ると、しーんと静まり返っていた。もう追いかけて来る気配はなくほっとした。さっきの男性が捕えてくれたのだろうか。  ここが2408号室か。  深呼吸して、息を整えた。  この部屋の中には、洋がいる。  何事もなかったことを祈る。  でも既に……辰起に危害を加えられてしまったのではないか。そう思うと足元から震えがあがってきてしまうが、意を決して鍵を開けた。  部屋は暗闇に包まれていた。  深い深い沼の底のような黒一色の世界。 「洋……いるのか」

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