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雨の降る音 4

 丈の口づけとその想いが躰の中に染み込んでいく。降り注ぐ雨を吸い込む大地のように、俺の躰はそれを受け入れていく。  丈は俺を……  ニューヨークへ行かせてくれた。  見守ってくれた。  待っていてくれた。  ずっと信じて…… 「んっ……丈っごめん。もう一人で勝手にしないから。あとは君と共に生きていくだけだから」 「あぁそうだ。もうあまり心配かけるな。私だっていつまでも我慢していられない」 「あっ!」  丈の唇が顎をかすめ喉を伝って首筋へ降りて来た。そこは俺の弱い部分で、途端にぞくぞくっとしたあの感覚が蘇って来てしまった。 「だっ駄目っ……」  こんな場所じゃなくて、ちゃんと抱かれたい。  久しぶりなんだ。俺の躰だって丈を欲しがっているから。 「ここは駄目だ。こんな場所で……」  流石に父の書斎ではまずいと思い、覆いかぶさって来る丈の胸を必死にドンドンっと叩いて抵抗した。丈もそれはすぐに理解してくれたようだ。 「すまない。もう止まらないな。どこならいい?」 「……うっ……俺の部屋なら」 「どこだ? 」 「に……二階」  すぐにぐらりと躰が宙に浮いたかと思うと、横抱きにされた。 「じょっ丈っ!」 「ははっ洋は相変わらず軽いな。もっと太らないと」  逞しい丈と比べたら、食べてもなかなか太れない俺の体格はひ弱に見えるかもしれない。だからといって、こんな風に軽々しく抱かれてしまっては、男として恥ずかしい。だけど今この家には俺達を邪魔する人は誰もいない。もう誰も……  そう思うと、この家を手放す前に、ここで丈に抱かれてもいいと思ってしまった。こんな考え変だろうか。まだ役所にも行っていないのに。  階段を上がり突き当りが俺の過ごした部屋。まだベッドもあるがマットレスのみで寝具はなかった。そこに丈が降ろしてくれる。 「……本当にここで?」 「駄目か」  思わず上体を起こし壁際へと後ずさりしてしまう俺の手首を、丈がぎゅっと掴んでくる。 「駄目じゃないけど……なんだか恥ずかしい。ここは俺が子供の時から過ごした場所だから」 「洋だって、いつも私が子供の時から過ごした部屋で抱かれているじゃないか。一度くらい……家を手放す前にいいだろう?」 「うっ……」  それを言われたら何も言い返せない。それに俺だって丈を欲しくなっているのが事実だ。  心を決めた。ここで抱かれよう。そう思うと自然に俺の方から、丈の首の後ろに手をまわしていた。そして口づけをした。 「洋?」  意外そうに丈が俺を見つめ、そのままベッドの上に仰向けに寝かされた。 「今、誘ったな」 「ん……いいよ。ここで抱いて」  丈がおもむろに自分が着ていたシャツを脱ぎ、それからTシャツも脱ぎ捨てた。それをマットレスの上に引いたかと思うと、今度は手際よく俺のズボンと下着を下げた。 「ちょっ……いきなり」  あっという間に下半身が剥き出しになり、その両脚の間に丈の躰が入って来た。窓のカーテンから漏れる光がゆらゆらと輝いて、あの日粉々になった月輪の破片を彷彿させた。そして胸元のボタンもゆっくり丁寧に外されていく。最後のボタンが外れると、胸をなでるように丈の大きくて薄い掌が潜り込んで来た。  人肌を感じると、ほっとした。  丈のこの手が俺は好きだ。  この手で触られると安心できる。  大きな手が俺の胸の突起を弄りだし、潰され捏ねられ掠られると……刺激は強弱をつけて波のようにやってくる。 「んっ……ん…」  口づけをされながら丁寧に時間をかけて胸に触れられると、次第に甘い疼きを下腹部に感じてしまう。辰起くんによってつけられた傷は、丈によって今から癒してもらうのを待っていたかのように、甘い疼きと欲望で震え出していた。そっと丈の指先が入り口に触れた。 「もう大丈夫だろうか」 「ん……たぶん…」  そう思った。傷を癒すために必要なのは丈だから、怖くはない。丈には詳しく話せなかったニューヨークでの出来事なのに、何故か丈は知っているような気がした。それでもやっぱり丈以外の人に触れられた……触れさせてしまったことが、やはり俺の中でダメージとなっていたようで、早く、早く丈で上書きして欲しい。そんな気持ちが満ちて来る。  丈が鞄から軟膏のチューブを取り出した。 「くっ……準備いいな」 「まぁな。洋の主治医だから薬は常に持ち歩いている」 「ははっ相変わらずだ」  そんな風に少し軽口を叩けば、緊張もほぐれていく。  長い指先で擦る様にゆっくりと触れられて、それから少し中へ挿入され、指先で具合を確認される。その手つきがなんだかいやらしく感じ、開かれた下半身がふるふると小刻みに震えた。 「もう大丈夫そうだな」 「そんな触り方するなっ」  感じちゃうだろう。 「洋、今のは医師として診察したのに感じたのか」 「なっ!」  いつもの丈の様子に、俺は日本に無事に戻って来れたことを実感した。 「丈っ……俺……ちゃんと帰って来たんだな」

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