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星空を駆け抜けて1

「で、その包みの中身は? 」  流さんが夕食を食べた後、興味津々に身を乗り出して聞いて来た。 「あっこれは……」  言うよりも見せた方が早い。そう思って※たとう紙をさっと開いてみせた。  黒い艶やかな生地を目の当たりにすると、さっき俺の家で丈がこの紋付き羽織袴を颯爽と着こなしていた姿を思い出して、少し頬が熱くなってしまった。 「なに赤くなってんの? 」 「なってません! 」  全く……流さんは丈以上に目聡いから困ったものだ。苦笑しながらも包みを開いて、中身をすべて見せた。 「おっ? これってもしかして、あれか? 結婚式に着る紋付き羽織袴ってやつか」 「はい。実は俺の父が着るつもりで準備していたものらしくて……でも着る前に交通事故で亡くなってしまい。今日これをずっと預かってくれた幼馴染のお母さんが持って来てくれて」 「へぇ。いいタイミングだな。でもこれ洋くんにはサイズが大きそうだよ」 「あっ……その丈が着たら、よく似合っていました」 「ははっ!それはいいね。これを着て結婚式をあげたらいいじゃないか。よかったな丈っ。お前ついてるな」  そう言いながら丈の肩を組んで、揺れながら豪快に笑う流さん。  迷惑そうに曖昧な笑顔を浮かべる丈。  二人の様子に、もしも俺にも兄弟がいたら、こんな風に笑っていたのかなって、少し切ない気持ちになってしまった。 「よし、知りあいの呉服屋を呼んで、きちんとこれを丈が着れるようにしてあげるよ。洋くん、この家紋も張矢のものにしてもいいのか」 「あ……もちろんです。丈に着てもらえたら、父もきっと喜びます」  そう思った。  もうほとんど記憶にない父だが、きっと理解してくれる。  そう願った。 「でもさ、これを丈が着ちゃったら、洋くんは何を着るの?あっその前にいつ入籍するつもりだ? そろそろ決めないと駄目だろ。もう養子離縁届も出したのだから、洋くんは自由だ」 「あぁそれならもう考えています」 「え?」  意外だった。丈の方がもうそこまで…? 「洋、七月七日だ。七夕の日はどうだ?」 「七夕……」  びっくりした。いきなり具体的な日付があがったので……でも七夕という言葉を聞いて、しっくりと来た。それは会いたい人に会える特別な一日だ。  ずっと昔から再び巡り会える日のために彷徨ってきた俺たちの魂。現世でようやく結ばれることによって、それぞれの過去をきっと変えることが出来たのだと、俺は信じている。  丈と俺の儀式には、君たちにも再び会えたらいいのに……それぞれの世界で幸せになったその姿を見せて欲しい。 「洋、それでいいか」 「あぁ、そうしたい」 「よしっ決まりだな。じゃあ父さんと翠兄さんにも話しておくよ。洋くん、君が呼びたい人を呼べばいいよ。式はこの寺の中で内々に行うから、誰に気兼ねもなく……好きなようにするんだよ」 「流さん……ありがとうございます。俺は……」  俺は幸せだ。本当にそう思う。 「あっさっきの話だけど、丈がこの紋付き羽織袴を着るなら、洋くんはどうするの?」 「いや適当で……俺はなんでもいいです」」 「そんな訳にいかないだろう。そうだ! 少し待ってろ」  そう言いながら、流さんは部屋を後にした。  ※たとう紙……着物を包む和紙のこと

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