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集う想い10
Kaiから電話を受けた翌日、早い時間に北鎌倉を出発し、始業時間と同時に恵比寿にある「ラン・インターナショナル」という、大手の通訳・翻訳・国際会議サービス会社に到着した。
ここは松本さんがソウルに来る前に勤めていた会社のはずだ。通訳部門では国内最大規模の会社だけあり、とても大きな自社ビルを恵比寿に構えており、ロビーには立派な受付があった。
「すみません。以前こちらに勤めていた人のことをお聞きしたいのですが」
「お調べいたします。その方の部署と名前を教えていただけますか」
「通訳をされていた松本優也さんという方です」
「個人情報になりますのでこちらではお答えしかねます。何かお急ぎでしょうか」
「はい、ちょっと急用で、どうしても連絡を取りたくて」
「お待ちください。人事に問い合わせしてみます」
「失礼ですが…」
「あ……崔……浅岡 洋と申します。ソウルのこちらの子会社と契約しています」
簡単に個人情報を教えてもらえるとは思っていないので、ダメ元だった。念のためソウルの子会社との契約時に作ってもらった名刺も渡してみた。日本で韓国人の通訳という仕事もあるので、契約だけは帰国後もそのままにしておいた。
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「お待たせしました。人事課の齋藤と申します」
「あっ浅岡です。よろしくお願いします」
「へぇソウルの子会社の通訳さんですか」
「はい」
齋藤と名乗る同年代の男性は、俺の名刺を見て関心を持ったようだった。
「用件はだいたい聞いていますが…それで誰を探しているんですか」
「あの……数年前までこちらの本社で通訳の仕事をしていた松本優也さんという人を探しています。彼の日本での連絡先が知りたくて」
「松本……優也……?」
その男性が何か思い当たるような表情を浮かべたのを、俺は見逃さなかった。
「知っているのですね。よかった!」
「え? あぁそうですね。懐かしい名前だ。実は彼とは去年ソウルの街で偶然会って」
「え! そうなんですか」
「そういえばホテルの通訳をしていましたね。彼も」
「はい、その松本優也さんのことを教えて欲しいのです」
「そうですか……あー参ったな、俺が話せるのはここまでで、もう五年近く前になるから詳細なデータは閲覧できなくて破棄しちゃっていると思うんですよ。たまたま松本のことは私が以前同じ部署だったから知っていただけで」
「えっそうですか」
一気に意気消沈してしまった……せっかく何かが分かりそうだったのに。
「それにしても松本も随分と綺麗な男だったけど、浅岡さんは驚く程美人ですね。あっこんなこと男性に失礼ですよね。すいません」
「え? 」
突然の不躾な言葉に眉をひそめてしまったが、屈託なく笑う姿に悪気はないように感じた。
「いやいや申し訳ない。じっと見て気を悪くしましたよね。いやぁあまりに美人さんなんでつい。あっお詫びに特別に使えそうな情報を教えてあげますよ」
「何か松本さんのことで? 」
「ええ。あいつの親友だった奴が、この会社に今も勤めているから紹介してあげましょうか。あいつも松本のこと聞いたら懐かしくて喜ぶだろうから」
「それはぜひお願いします」
松本さんの親友。それは一体どういう人だろう?
その人なら、日本での連絡先を知っているかもしれない。
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