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完結後の甘い物語 『流れる星 1』

 披露宴も落ち着いて、やがて歓談の時間となっていた。  輪の中心には、黒い紋付き羽織袴姿の凛々しい姿の丈と、薄い白色に繊細の花の絵付けを施した和装姿の美しい洋くんが並んで立っていた。  俺は翠兄さんと並んで、その日の当たる世界の明るい光景をぼんやりと眺めていた。  果たして今……兄さんはどんな顔で、この光景を見ているのだろう。そんな興味が沸いたので、そっと盗み見すると、とても眩しそうに目を細めていた。  俺もかつてこんな目をしたような気がする。そうだ。あれは翠兄さんが結婚した日だ。ウェディングドレスを着たいという花嫁側のたっての希望で、寺の仏前式とは別にホテルで披露宴をしたのだ。  俺は宴会場でただ座っているのが辛かった。とても幸せそうな新郎新婦を凝視できなかった。  そんな子供じみた理由で、披露宴会場を抜け出したが、やはり兄さんの様子が気になり、そっと庭先から中を覗き見した。カーテンの影に新婦は隠れ、翠兄さんの姿だけが見えた。  白いスーツ姿の兄はノーブルな魅力で溢れていて、俺は眩しいものを見るかのように、目を細めた。 「んっ流どうした? 」 「……懐かしいですか」 「えっ? 」  兄さんは、意外なことを言われたように驚いた様子で、目を見開いた。  あぁ……こんな些細な表情にも心を奪われる。  この兄は本当に美しい顔立ちだ。  一つ一つの動作も表情も何もかも、俺には輝いて見える。 「かつての結婚式を思い出していたとか」 「どうした? そんな昔のことを今更。もうとっくに忘れたよ」 「そうですか。なんだか懐かしそうな眼をしていたから……もしかして」 「ふっ……そうじゃないよ。流」  どういう意味だろう。  美しい笑顔を浮かべる兄の心の内が、すべて覗けたらいいのに。 「さぁ、そろそろ時間だよ」 「そうですね。皆を案内して来ます」 **** 「食後はお抹茶を点てますので、どうぞこちらへ」  食後は、皆を庭の奥深い所へと誘った。  この寺の裏山は、ほぼ竹で覆われている。  天へと真っすぐに伸びたあまたの竹。そしてその竹林を割って清らかな小川が流れている。小川の先を辿れば、今朝洋が溺れそうになったあの滝つぼがあり、山奥のひんやりとした空気に流れる水の音を添え、心静まる空間を作っていた。  俺はここに小さな茶室を設けた。  ただ一人のためだけに。  だが、今日は特別な日だ。弟と洋くんのために、ここを開放したのだ。  竹林の中、滝の水が岩を打つ音を聞きながらいただくお抹茶は、人の心を優しく和ませてくれる。この和やかな日、和やかな時間が、参列してくれた人にとって一つの良き想い出となるように、俺は心を込めてお点前を始めた。 「洋くん、手伝ってくれるか」 「もちろんです。流さん」  数日前からお点前の稽古を、洋くんは励んでくれた。これは洋くんのたっての希望でもあった。  自分の手で、お抹茶を渡したいと……来てくれた人に、心を配りたいと。

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