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完結後の甘い物語 『蜜月旅行 1』
「だから、なんだって二人きりで行かせてくれないのですか」
「しょうがないだろう。母上様のご命令だ」
「ったく、一体どういう感覚をしているのだ。うちの母は……はぁ…」
頭痛がして、思わずこめかみを押さえてしまった。
「丈……大丈夫か。でも大勢で行くのも楽しそうだよ。んっ? 」
励ますように洋が言ってくれるが、とても複雑な気持ちだ。
そもそもの事の発端は、私が用意した新婚旅行のパンフレットを、洋が床の間に置いたからだ。
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嵐のせいで、私たちの部屋や渡り廊下が大規模に雨漏りしてしまった翌日、すぐに大工を呼んで相談したが、もう応急処置では手に負えないレベルにまで、屋根が破壊されてしまったと報告を受けた。
そこで今後の工事の相談のために伊豆に滞在中の両親を呼び戻したのだ。大工の棟梁から状況説明をしてもらい、結局、至急大規模な補修工事をすることになった。
「ふーん、なるほど、あなた、いいんじゃないですか。この機会に思い切ってやってしまいましょうよ」
「うむ、そうだな。宿坊の方はどうする? あちらの屋根も一緒にやってしまおうか」
「ええ、丁度八月はお盆期間もあり人手不足で宿泊座禅会は休む予定だったし」
そんな相談が繰り広げられている中、ちょうど両親が来たことだし、来週からの新婚旅行のことを話しておこうと、軽い気持ちで伝えたのが失敗だった。
「あの……それでなんですが、寺が大事な時にすいませんが、私と洋は来週から旅行に行ってきます」
「ほぅ……どこへ何泊位行くつもりか?」
「宮崎へ行こうかと。三泊四日で……」
「まぁ! それってもしかして新婚旅行なのね。宮崎は私たちの新婚旅行でもあったのよね。ねぇあなた」
「うんうん」
父は昔を懐かしむ様に目を細めていた。
「あら翠は、何をじっと見ているの? 」
「……そうか、これがその旅行の行程表なのか」
いつの間にか翠兄さんは、宮崎の旅行のパンフレットを手に取りじっと眺めていた。どうやら洋が留守宅用控えを、床の間に置いていたらしい。
「宮崎か……いいね」
「まぁ翠……あなた可哀想に。そうか……行ったことないのね。母さんは最近不憫でならないわ。あなたには若い頃から無理ばかりさせて、旅行といえば仏事絡みばかりで、南国へなんて行ったことなかったわよね」
「え……そうかな。でも仏門の修行も楽しいので……大丈夫ですよ。そんなことは」
翠兄さんは少し恥ずかしそうに控えめに答えていた。
「ねぇ流はどう思う? 」
「まぁね、翠兄さんは、確かに可哀そうに……俺と違ってそんな堅苦しい旅行しかしたことないですね」
いきなり話をふられた流兄さんも同調するように答えると、母は何かを閃いたように更に大きく頷いた。
「そうよね! 私、とってもいいことを思いついたわ」
途端に家族中がしーんっと静まり返った。
母の言う『いいこと』が、本当にいいことであった試しなんて一度もない気がした。
果たして……今度はどんな酷い試練を思いついたんだか。
辛い試練を被るのはこの中の誰だ。さぁ……言ってもらおうじゃないか!
皆がゴクリと覚悟した中、洋だけが不思議そうにしていた。
「コホン……丈と洋くんの新婚旅行には、あなたたち二人も付いていくこと。思えば三兄弟で旅行なんてしたことないんじゃないかしら。せっかく母さんが頑張って男ばかり三人も産んで育てたのだから、その素晴らしさを宮崎でアピールしていらっしゃい」
「はっ? ちょっとちょっと何をアピールだって? くくくっあー可笑しい! いやこれはまた母さんの書き物への新たな挑戦なのか! 」
流兄さんが大声でそう言った後、腹を押さえて転げまわってる。
「まぁ流は失礼ね。親睦旅行だって言っているでしょう」
私はがっくりと肩を落とした。
はっきり言っておくが…これはただの旅行じゃないんだぞ。
新婚旅行だって言っているのに……なんでいい歳の兄が二人も付いて来るんだ?
無理だ!!!!
そう叫ぼうと思った時、控えめな声が届いた。
「え……本当に…いいのですか」
皆で一斉に声の主を探すと、翠兄さんだった。
「もちろんよ。翠、行ってみたいのでしょう。あなたはいつも頑張っているから、ご褒美よ」
「嬉しいな。まさか僕がこんなところに行けるなんて、思っていなくて」
「えぇそうよ。あなたにも息抜きが必要よ。ここ最近は、私達が伊豆に行ってばかりで、まだ若住職であるあなたに住職の仕事を押し付けてばかりだったから、一応悪いとは思っていたのよ。ねっあなた」
「そうなのだよ。翠や……私たちが元気なうちだぞ。その衣を脱いで、気ままに旅なんぞ出来るのは。さぁ行って来い。お盆前だが、まだそこまで多忙でない。四日程なら私達だけでなんとかなる。それに流や丈、それに洋くんも一緒だなんて、楽しそうじゃ。兄弟の親睦を深めておいで」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えさせていただきます。流、よろしくな」
「え……あ……まぁ」
翠兄さんの晴れやかな笑顔を受けて、流兄さんはなんとも複雑な顔をしていた。それもそうだろう。私と洋、兄さん二人の部屋にどう考えても別れることになる。
いい歳の兄弟同士で、それで楽しいのか。いや流兄さんは昔から翠兄さんにべったりだったから、嬉しいかもしれないが…
すると……やっぱり今回の一番の試練は私だろう。思いっきり洋といちゃつこうと思っていたのに、兄二人の眼があると思うとなんとも。だが、そんな私の気持ちなんてお構いなしに、洋は新しい兄弟との旅行にうっとりしているような表情だ。
「嬉しいな。翠さんと流さんも一緒なんて、とても賑やかで楽しそうだ。それに翠さんとこの前話していたし……翠さん、一緒に宮崎に行けることになって良かったですね」
「ありがとう。洋くん、そうだね」
「うんうん翠や、良かったな。楽しんでおいで」
「そうよ。たまには、ゆっくりしていらっしゃい」
父と母は寺の跡取りの翠兄さんに厳しい反面、時々……滅茶苦茶に甘い時がある。まさにこれはそのパターンだ。
そんな訳では私達三兄弟と洋が揃って、南国・宮崎のブーゲンビリア空港へ降り立ったのだ。
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今日から新婚旅行編スタートします。
『蜜月旅行』1部完結後の新婚旅行なので、甘くエロく……弾け気味に書いています。
当分続きますが、呆れずについてきていただけたら嬉しいです(〃▽〃)
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