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『蜜月旅行 47』もう一つの月

 深まる口付けと共に、流の長年の想いが流れ込んでくる。それはまるで濁流のように、僕を呑み込んでいく。  流の手が僕の浴衣の上を彷徨っている。いや違う。胸の小さな突起の在り処を探している。  やがて探り当てた指先は、布越しに小さな尖りをきゅっと摘まんできた。 「あっ……」  変なところから声が出て、そんな自分に驚いてしまった。  そんな所は……そんな所に触れてはいけない。これ以上は駄目だ。  そう思うのに、躰に力が入らないんだ。  どうして……どうしよう。 「流っ……駄目…駄目だ」 「翠……俺はもう付けてしまったんだ。翠は俺の物だという印をここに」 「あっ」  風呂場で見つけた赤い痕。  あのことを言っているのだ。流は…… 「もう一度見せてくれ」 「うっ……」  浴衣の胸元から手を差しいれられ、片方の肩から抜かれ、胸元がはらりと露わになっていく。肌が露わになっていくことに、これほどまでの羞恥を抱いたことはあっただろうか。  浮かび上がるのは、月下に咲く椿のように凍える花。冷房のよく効いた部屋で剥き出しにされた肌は、鳥肌を立て震えていた。  そこを温かい舌先で舐められた。 「あぁ駄目だっ! もう離せっ……これ以上は僕に触れてはいけない」 「翠、翠……」  熱にうなされたように流が呼ぶ。  あの世界でも、そう呼ばれてみたかった。  どんなに望んでもその声は届かなかった。  この世がそうなのか。  僕と流が長く憧れ……待ち望んだ世の中なのか。  だがこの世でも僕たちは血を分けた兄弟だ。 「月下に咲く花のようだ、翠……」  そう囁かれた途端、躰が更にかっと熱く火照り、我慢出来ない程……疼き出してしまった。  躰の奥に、知らなかったものが目覚めていく。  窓ガラスに貼り付けられた僕の躰。  胸元に流がまるで縋るように吸い付いて来る。舌先で乳輪をなぞられ、乳首を甘く含まれる。 「んっ……やめ…ろ……駄目だ」  嫌じゃない。本当は……気持ちがいい。  待ち望んだものがすぐ近くにやってきた喜びすら感じている。 「あぁっ」  この月夜は……  この蜜月は……  僕自身を…僕の人生を大きく変えてしまうのか。

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