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引き継ぐということ 15
目が覚めたら、いつの間にか朝だった。誰かがオレの手を握り締め、そのまま眠っていた。
流さん? いや違う。
この少し明るい髪の色は、父さんだ。
なんだか妙な気分だった。
確か……オレがまだ六歳位の頃、この寺に母の元を離れて夏休みに泊った時、古い寺の天井の木目が怖いって泣いたことがあったよな。
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「お化けみたいで怖い!ほらあそこもあそこも!」
震えるオレの手を、父さんがしっかりと握りしめてくれた。
「薙、大丈夫だよ。お父さんも小さい頃は同じことを思っていたよ。でもお化けなんか出て来たこと一度もなかったよ。ほら手を繋いであげるから、お休み」
あの時と同じ温もりだ。
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ふっ……あの頃はまだ可愛げがあったよな。今はこんな手なんてなくても、ぐっすり眠れるのに……父さんは馬鹿みたいだ。
だから。わざと乱暴に手を払いのけた。
もういらないと伝えるために。
「あっ」
その反動で、父さんが目覚めた。
「なんでこんな所にいるんだよ。気持ち悪いなっ!」
「薙……」
少し呆然とした父さんの顔をちらっと見て、胸の奥に少しの罪悪感が沸いたけれども、すぐにねじ伏せた。
「おはよう。よく眠れた? そうか……悪かったな。もう一人でも大丈夫なんだね。すっかり大きくなって」
それでも、気遣うように根気よく優しく静かに話かけてくる。
「……もう子供じゃない」
「そっか……それもそうだな」
寂しそうに笑う父の顔を見たくなくて顔を背けると沈黙が続いたが、流さんが入って来たので、ガラリと部屋に漂う雰囲気が変わった。
「おっ! 起きたのか~朝飯出来たぞ」
「流、おはよう」
「兄さん、おはよう。ほら見ろ、もう邪魔だって言われただろう」
「まあね……」
ぱっと父の顔が明るくなり、どこかほっとした表情を浮かべた。
昔から父さんはオレと会う時、いつも流さんを連れて来た。オレも豪快な流さんの方が波長があって楽しかったから、父さんそっちのけで遊んでもらったよな。
「薙よく眠れたか。お前車の中で寝ちまったから、俺がお姫様みたいに抱っこしてやったんだぜ?」
「はっ?」
なんだか猛烈に恥ずかしくなった。この人の腕の中に、女の子みたいに抱かれたっていうのか。
「そんなの知るかよ! もういいだろ。二人とも部屋から出てけよっ!」
乱暴な言葉遣いだっていうのは分かっている。でも止まらない。流さんは、はぁと小さく溜息をついた後、オレの髪をぐしゃっと撫でた。
「何すんだよ!」
「お前さぁ、しばらく会わないうちに尖がったな。まぁ俺もお前位の時期そんなんだったから分かるけど、一晩中心配して付いていた翠兄さんのことも少しは考えてやってくれよ」
「そんなの知るかよ。頼んでないしっ」
「おい!」
「流、僕のことはいいから、さぁ行こう。薙、1階の奥の部屋だよ。朝食を食べよう。紹介したい人もいるし」
「……分かった」
流さんは手際よく父さんの布団を畳んで去って行った。布団使った形跡がなかったということは、まさかずっとオレの手を握っていたのか。
本当に、父さんは馬鹿だ。
昔からいつもこうだ。怒ったところなんて見たことがない。怒るのは母さんの方ばかりで、父さんは黙ているか謝るだけ。子供心にイラついていた。男なんだから、もっとしっかりすればいいってね。
部屋を見渡すと、和室だったが、ベッドに勉強机など思ったよりセンスよく用意されていた。どこか外国の子供部屋みたいだな。なんて思えるほどだ。
洋服ダンスには、見たことがない服が用意されていた。一体こんなに沢山、誰が用意したのだろう?
いつも袈裟や作務衣ばかり着ている父さんや流さんに、こんなセンスがあるのか?
へぇ、思ったより悪くないな。 ジーンズにTシャツという何でもないコーデだが気に入った。
オレはそれを着て、ポケットに手を突っ込みながら階段をトントンっと足早に下りた。
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