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引き継ぐということ 17
丈はキスが上手い。
外科医として優秀だとキスまで上手いのか。そんなことを唇を吸われながら頭の中でぼんやりと考えていた。
「洋、よそ見するな」
「んっ」
その大きな手の平で俺の首の後ろを支えられ、腰をぎゅっと抱かれれば、下半身がぶつかり合う。
息継ぎも出来ない程巧みに舌を入れられ、かといって強引ではなく優しく俺の口腔内を駆け回る。やがて俺の腰を抱いていた手のひらは背中へ伸びて、薄いシャツ越しの背中にその温もりを熱く感じる。
優しい唇、優しいキスは、俺の震える舌先を誘い出し、ちゅっと吸ってくる。
「洋……可愛いな」
腰に響く低音に、いよいよ立っていられなくなる。
とその途端、躰をそっと離されてしまった。
腰が震えているので、ふらつきながら壁にもたれかかった。
「大丈夫か。あぁもう時間だ。それじゃ行ってくるよ」
「……丈は意地悪だ」
「キスが上手いと言って欲しいな」
クスッと大人の笑みを浮かべる丈が、憎たらしいよ。
毎朝これじゃ、たまらない。
朝から俺を欲求不満にしてくれるようなものだ。
部屋に残された自分の下半身を見れば、うっすらと半勃ちになっていて、恥ずかしさで死ねる。ふにゃふにゃとカチカチの間位の硬さとやわらかさを持った状態で……これを十分でない、足りていない状態と人は言うのだろう。
「もうっ……これどうしたらいいんだよ」
焦らされているような気がする。
俺から欲しくなるようにと。
****
躰が落ち着いてから、部屋をそっと出た。
翠さんから薙くんと一番歳が近いのは俺だから、よろしく頼むと気軽に言われたが、本当は少し不安だった。
俺は相変わらず人付き合いが上手い方ではないし、俺が薙くん位の年齢の頃の記憶はあまり良いものではないから、役に立つとは思えないのに。
それでも、翠さんの頼みならと引き受けた。
深呼吸してから薙くんの部屋をノックする。
「誰?」
「あの洋です。入ってもいいかな」
「……どうぞ」
部屋に入ると薙くんは窓際に立っていた。開けっ放しの窓から風が吹き込み、白いカーテンが羽ばたくように揺れていた。
天使のような光景だと思った。
若い少年らしい躰は折れそうに細く、横顔はお父さんの翠さんに似ていて儚げに見えた。
だが俺を睨むように見つめる眼は鋭く、きりっとした眉をひそめていた。
「何の用ですか」
「あ……足りないものはないかと思って。俺が君の部屋の家具とか用意したけど大丈夫だったかな。趣味に合ったかな」
すると少しだけ戸惑った表情で彼はそっぽを向いて、小さな声で呟いた。
「……悪くなかった」
へぇ、つっぱているのに、可愛いところもあるんだなと思ったのもつかの間。
「ねぇ誰かとキスしたばかりなの? 唇が濡れてるよ」
「ええっ?!」
思わず自分の唇を、手の甲でゴシゴシと拭ってしまった。
「はははっ! ひっかかってんの。冗談だよっ」
「ええっ……」
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