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引き継ぐということ 19

 中学校へ続く道か、懐かしいな。  俺も中学生の時、この道を毎日のように歩いた。  高校生だった兄さんと肩を並べて歩くのが嬉しかった。  あの頃の甘酸っぱい気持ちを思い出す。  今、俺の横を歩くのは兄さんの息子だ。  なんとも不思議な光景だ。  薙の涼し気な横顔を見ながら、まるであの日の兄さんがタイムスリップしてきたかのような、錯覚に陥る。 「何? なんで俺の顔じろじろ見てんの? 」  一瞬焦った。だが翠のことを考えていたことがバレないように気をつけながら、本当のことを話した。 「あっいや、薙は本当に父親似だと思ってさ」 「はっまたそれ? もう聞き飽きたよ。父さんを知っている人なら100%そう言うからね」 「へぇやっぱりそうか」 「で、次に言うことは中身は正反対だってさ!」 「はっ? ははっ。そうか、そんなこと言われるのか」 「どうせ俺は……父さんみたいに繊細で優しくないからね」  可愛いことを言う。つっぱっていてもまだ14歳。翠によく似た繊細な容姿と強気な性格が確かにアンバランスだが、それも悪くない。  翠にもこの位の強さがあったら、克哉との悲しい事件の数々は起きなかったのでは……ふと、そんなことを思ってしまった。 「薙は薙だ。俺はお前のその性格嫌いじゃないぜ。だが無理すんなよ。どうしても駄目って言う時はちゃんと周りの大人を頼れ」 「いちいち煩いなっ。でも、流さんはちょっと変わってる」 「俺が? 」 「なんか父さんの弟とは思えない」 「ははっ、俺もよく言われたよ。先生に怒られる度に、お兄さんは優秀だったのにってな」 「そうなのか。流さんでも……比べられたりしたんだ!」 「当たり前だろ。俺は兄さんと違って粗雑で頭も悪かったしな」 「そんなことない。流さんは……その……」 「なんだ?」 「なんでもない!」 「あっおい待てよ」  薙は……自分で言って恥ずかしくなったのか突然走り出した。その俊敏な動きに呆気にとられてしまった。  なんだか、つむじ風みたいな奴だな。  翠が静なら、薙は動だ。  野生の動物のように荒々しい時もあれば、翠の血を感じさせるような繊細な心も持っているような気がした。  小さくなっていく後姿を眩しく見つめると、過ぎ去った俺の青春の思い出が、風にのって蘇えるようだった。  さてと俺も早く用事を片付けて、兄さんの所へ行かないとな。  翠を一人にさせておけないから。  今日は特に…… ****  それにしても憂鬱な葬式だ。  行先は「建海寺」だった。  達哉から久しぶりに連絡をもらった時は驚いた。僕はもう二度とあの寺には行くことはないと思っていたから。  やはり流を待ってから、一緒に行けばよかったか。  だが住職でもある俺が遅刻するわけにはいかない。  足取りが重たい。  やがて寺の山門が見えてくると、達哉の姿を捉えることが出来た。  達哉のことが嫌いな訳じゃないんだ。  ただこの寺には、いい思い出がないだけだ。

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