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引き継ぐということ 24

 縁側に座って白い褌と格闘している薙くんの姿が、なんだか可笑しかった。そうこうしている内に空はすっかり暗くなり雷が轟きだした。ぽつり……またポツリと大粒の雨が渇いた土を濡らす。 「薙くん、雨が降って来たよ。洗濯物を部屋まで運ぶのまで手伝ってくれる?」 「いいよ」  庭先に置きっぱなしの洗濯籠を和室に運んでもらった。そのまま俺が畳に座りながら洗濯物を畳み出すと、薙くんも無言で手伝ってくれたので驚いた。 「手伝ってくれるの?」 「あぁ、だってさ洋さん不器用そうだもん。ひとりじゃ時間かかるだろ」 「うっ……」  確かに図星だった。俺は何でこう手際が悪いのか、自分でも嫌になるほど洗濯物一つ畳むのにも時間がかかる。隣で薙くんは器用に綺麗にどんどん畳み上げていくのに。  窓の外は、あっという間に土砂降りだ。  雷がピカッと光り雷鳴が駆け巡る。  俺は昔から何故だか雷だけは怖くなかった。  いつも雷に助けられたせいか、遠い昔から雷は俺の味方だ。  何度も助けられたから。  でも薙くんは違うようで、大きな落雷の度に肩がびくっと震えていた。 「あの……もしかして怖い? 大丈夫? 」 「うるさいな! 怖いはずないだろっ!」  突っぱねているが表情を見れば分かる。少し頼りなさそうな憂いた顔だ。あぁこんな表情もするのか。本当に君はお父さんに似ているね。 「この土砂降りじゃ、お葬式が終わっても暫く翠さんたち戻って来れないかも」 「えー!じゃあ夕飯はどうするんだよぉ」 「うっ」  まずいな。流さんがいないと俺……何も出来ないんだった。  頼みの綱の丈もいないし、どうしよう。 **** 「翠、こっちだ」  寺の山門まで、流に腕を掴まれ引っ張られるように走った。僕たちは傘を持っていなかったので、もうこの時点で全身びしょ濡れだった。  山門の階段を駆け上がり、そのまま庭を突っ切って寺の母屋に戻るのかと思いきや、流はそこから突然左折した。 「流? なんで……母屋に戻らないのか」 「こっちだ」 「え……そっちには茶室しかないのに。あっ……」  茶室で雨宿りするつもりなのか。  あそこは流が僕のために建ててくれた場所。僕が疲れていると、いつも流はあそこに連れて行って御抹茶を点ててくれる。  深い濃い緑色の水面が揺れ、立ち上る抹茶の香りを嗅ぐ。  流が僕のために設けてくれる時間。 一服すると疲れが取れて行った。  降りしきる雨で視界がかなり霞むのに、僕の目には茶室だけは、はっきりと見えていた。 「翠、少し寄り道していこう」 「……そうしよう」  僕たちには寄り道が必要だ。  僕たちはお互いに飢えていた。

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