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引き継ぐということ 35
「翠……」
流の声がして、頬を優しく撫でられていることに気が付いた。
躰の隅々まで温かい布で拭われているのを、遠い意識の中から感じていた。
汗と雨……それ以上のもので濡れた僕の躰を、労わるように優しく拭いてくれているのを感じ、安堵した。
僕は共に果てた後、疲れ果て少し眠ってしまったのか……なんだか記憶が朧げだ。瞼をやっとの思いで開くと、流の逞しく広い腕の中に抱かれていた。上半身を起こされ、流にもたれるような姿勢だった。
「りゅ……」
声を出そうと思ったが、喉を酷使してしまったらしく酷く掠れていた。
「翠、これを」
流が手にもたせてくれのは、冷たい緑茶だった。ゴクゴクと一気に飲み干すと、喉が潤った。
「……美味しい」
そう呟くと、流が心底嬉しそうに微笑んだ。
「翠、無理させたな。あとでちゃんと風呂に入ろう。とりあえず気持ち悪いところはないか」
その言葉にはっとする。何もつけず躰の奥に大量の注がれた流のものは、どこへ行ったのか。
下半身に意識を向けるが、不快なことはなかった。そこはもう綺麗処理されたようで、でも記憶がないうちに流に何もかもされたと思うと、恥ずかしかった。
「流……」
もう一度声を出すと、今度はきちんと出た。
「どうした?」
「もう帰らないと」
「はぁ、分かっているさ、翠が気になるのも。さっきだって最後の最後で理性が戻ってきて憎らしかったよ。だから翠が悪い」
「え……」
はっと思い出した。
互いの精が果てた後も、しばらく僕たちは手を絡めあい、そのままでいた。
流のものはまだ僕の中にいたのに……どんどん理性が戻ってきてしまい、気が急いてしまった。
****
「流……そろそろここを出よう、もういい加減に戻らねば。皆心配しているだろう」
そう告げて、現実に戻ろうとした途端、もう一度痛い程に、流に抱きしめられてしまった。
「おい……何してる、もう離せ」
「嫌だ、もう一度だけ!」
「流、それは無理だ。時間がないだろう?」
「次いつ抱けるか約束できるか」
「それは……分からない」
「じゃあ今だ、まだ足りない」
ぐいっと躰を引き起こされ、今度は流の上に跨がされた。
「あっ……こんなっ」
丸見えだ。これじゃ……こんな体勢は。
羞恥に震える間もなく、先ほどまで流のものが挿入されていた場所に、もう一度深く貫かれてしまった。
まだ充分濡れている僕の蕾は……流のものをいともたやすく……待ち望んでいたかのように受け入れてしまう。
「あうっ」
深く強く突かれ、突かれ、僕は不安定な躰が崩れ落ちそうで、必死に流の逞しい背中へ手をまわした。
「あっ……んっ……ん」
止められないひっきりなしの喘ぐような自分の声。
雨はもうとっくにやんでいた。
茶室から不用心に声が漏れ出していかないように堪えるはずが、もう無理だった。
「んっ、あっいや。それ……いやだっ」
「感じているだろう?」
胸の尖りを同時に捏ねられ、唇を塞がれ、抱き合いながら突かれ小刻みに揺れる躰。
その振動すらも気持ちがいいなんて……
僕は本当に乱れてしまった。
記憶がなくなるほど、結局は流を受け入れ、流に感じ、流を求めた。
躰の奥に迸る熱いものを受け止めると、自分の精も同時に弾けた。
****
そこでプツリと気絶したのだろう。その先の記憶がない。
「翠……怒っているのか。なぁその沈黙はやめてくれよ。怖くなる」
「……お前は馬鹿だ。あんなにしつこく求めて」
「ごめん。だが可愛かったから止まらなかった」
「もう言うな、それ以上。恥ずかしくなってしまう。一生に一度の契りではないんだ。僕はいつだって流のものだ」
「おいおい翠……そんなこと容易く言っていいのか。俺はしつこいぞ」
「……知っている」
流の胸の中で、僕よりずっと逞しい彼の腕の中で、僕たちは微笑みあった。
穏かな流の笑みと体温に、充足した時間を分かち合ったことを実感した。
引き継ぐものは何か。
寺はもちろん大事だ。
寺に引き取った息子は、かけがえのない存在だ。
過去の僕はどうだ。
おそらく叶えられなかった弟への想い。
流を受け止めて、流を求めるのは悪いことではない。
ずっと脈々と僕の血筋に受け継がれてきたのだ。
無念な想いを……こうやって流と躰を重ることで、浄化していくのかもしれない。
だから……引き継いでいく。
この先も…流を僕は受け入れる。
命ある限り、ずっと永遠に。
『引き継ぐということ』了
あとがき (不要な方はスルー)
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こんにちは!志生帆海です。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ふぅ…なんとか「引き継ぐということ」を書き終えました。
いつの間にか35話にもなっていました。
宮崎以来久しぶりに熱い逢瀬の二人でしたが、やっぱり流さんはタフでした。
まだまだ若い二人、想いが通じあったばかりですもの、もっと求め合って欲しいとも思っています。皆さんはどうですか?
今日はいつも反応下さる方にお礼が言いたくて…
ここの所少し疲れていたのか、今日はもう更新出来ないかなと思う日もあったのですが、リアクションやコメントに本当に励まされていました。一つのポチッで1000文字は進めそうなど、執筆のエネルギーになります。ありがたいです。
まだ薙くんの成長や丈と洋の新居の話、翠流のことなど……需要あるか分からないけど自分の萌えが枯れるまでは書き続けたいです。
一つお聞きしたいのですが、私の話で……好きなカップルを教えて欲しいです!私はもちろんどのカップルも好きですが、ラブコールがもし届けば、今後SSなど肩入れしちゃうかも。コメントお気軽にどうぞ。
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