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出逢ってはいけない 15

「薙、待たせたな」 「流さん!」  薙の部屋に入ると、友達と熱心に勉強しているようだった。机の上には参考書や辞書、ノートなどが山積みで、ふたりで課題に格闘していたようだ。  こういう光景って懐かしいな。中間とか期末とか、俺は兄さんと違って、出来が悪かったけど、英語と美術と書道。それと体育はよく出来た。 「さてと、どこを教えてたらいい?」 「あっあの、岩本拓人と言います。俺までありがとうございます」  薙の友達も律儀に挨拶してくれた。昨日は少し心配したが、どうやら問題なさそうだな。そんな気持ちで、すっかりリラックスしてしまった。ふたりともなかなかいい生徒で、俺の説明を聞いては頷いて、可愛いもんだった。 「なんか腹減った」  薙がふと呟くと、その友達も腹をぐうっと鳴らした。 「くくっ、若いな。よしっ、何か食うか」 「うん、もう腹ペコだ」 「確かにもう昼だしな。パスタかなんかでいいか」 「わーオレ、流さんのパスタ大好きだ」 「OK! 可愛いこと言うのな。いつも薙は。ちょっと待ってろ」  薙と友達はハイタッチで喜んでいる。無邪気なもんだ。   「やったー拓人喜べ、流さんのパスタは絶品だ」 「へぇ楽しみだな」  俺も楽しい気持ちで廊下に出ると、翠こちらに向かって歩いてくるところだった。 「兄さん、どうした?」 「あ……そろそろお昼だろう。お腹空いたんじゃないかと思ってこれを」  お盆の上には、お稲荷さんの弁当が載っていた。 「買って来たのか」 「うん、お前は手が離せないと思って……僕は作れないからね」 「……そうか、気が利くな」  翠なりに何か息子のためにしてやりたかったのだろう。父親らしい優しい心遣いだ。そのまま一緒に部屋にUターンをした。 「あっ……父さん」 「薙、勉強、頑張っているね。これ……お昼にお友達と食べるといい」 「え? 」  薙は困惑した表情を浮かべていた。 「何これ? 」 「あ……お稲荷さんの弁当だよ。薙は昔これが好きだったから」 「……いらない! こんなのよりも流さんのパスタの方がいい!」  げっ……薙それを言うか。翠が固まってしまったじゃないか。まずいな……この状況。せっかく上手くいっていたのに。あーくそっ俺が安易にパスタ作ってやるなんて言わなきゃよかった。悪い、悪かった。もう反省だ。  必死に取り繕うとする翠の顔は、無理をしているのがありありと分かって心苦しい。 「そっそうか。そうだね。……若い子にはパスタがいいよな。父さん気が利かなくて悪かったな」  泣きそうな目をしていた。そのまま背中を向けて去っていこうとするので、思わず呼び止めてしまった。 「翠っ、待てよ!」 ****  父さんに……悪態をついてしまった。せっかく弁当を買ってきてくれたのに、オレはどうしてあんな言い方しちゃったのかな。  でも流さんのパスタが食べたかったんだ。だからつい我儘を言ってしまった。  頭の中でぐるぐると反省していると、隣に座っている拓人の様子がおかしいことに気がついた。顔色が悪い。青ざめているように見えた。 「拓人? どうした」 「あ……今のはお前の父さんだよな」 「うん、そうだけど?」 「……お父さんの名前って……『スイ』っていうのか」 「そうだけど? それがどうかしたか」  拓人の顔が一瞬強張った。 「……悪い。俺……帰るよ。用事思い出した」 「え? どうしたんだよ。急に」  血相を変えて帰っていく拓人の様子に、得体のしれない不安を感じてしまった。  オレ……何かとんでもないことをしたのか。 **** 「あら拓人くん、どこに行っていたの」  薙の家から飛ぶ勢いで、母さんが死んでから世話になっている義父の実家、祖父母が暮らすマンションに戻ってきた。  帰るなり、義父のお母さん、俺がみつ子さんと呼んでいる女性に話しかけられたので、聞いてみた。 「月影寺に行ってきました」 「えっ今なんて……?」 「月影寺の『スイさん』に会ってきました」  みつ子さんの顔色はみるみる青ざめ、手に持っていたマグカップを床に落とした。 「なんで……あんな場所に。あなたは絶対にあそこに行ってはいけないのに……不吉だわ……」  

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