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出逢ってはいけない 17
薙の家に遊びに行ってから、数日が経った。
母と父の会話に度々あがっていた『スイさん』というのが、本当に薙の父親なのかは確証が持てなかった。
違ったらいいのに……そんな想いで溢れていた。
俺は転校先で薙と出会い、いつの間にか親友というポジションになれた。一見取っ付き難そうな薙が、俺だけに許してくれた距離が居心地が良かった。
薙を憎みたくない。
でももし彼の父親が、両親の喧嘩の種だったとしたら……二人も子供を産んでも報われなかった母を想うと、やりきれないんだよ。
短期留学の前日にも、父と母が夜中に喧嘩し出した。幼い弟たちはとっくに眠っていたが、俺は一部始終を聞いてしまった。
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「あなたっ! また男と遊んで来たのね、信じられないわ……おぞましい」
「お前、また勝手に手帳を見たな!」
「また『スイさん』の面影を求めて……なんて言い訳するの? もういい加減に忘れてよ。あなたには私との間に子供が二人もいるのよ。父親らしくなって……お願いだから」
「まぁまぁそう怒るなよ。分かっているさ。この生活を壊すつもりはない。ほらっ夏休みの旅行の予約をしてきたぞ」
「……え……そうなの?」
「あぁ、玲もユイも絵日記に書く内容が必要だろ。今年は拓人が留学するからどうしようかと思ったが、俺たち四人で宮崎旅行をしないか」
「まったく……あなたったら。本当に酷い人……でも、しょうがないわね」
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母は再婚だったし、俺というお荷物を抱えていたから、最後まで強く出れなかったのか……いつも喧嘩はうやむやに終わっていた。あんな会話をいつも夜中に繰り広げるから、いやでも知ってしまったんだ。
父が男の人も好きになれるタイプで、父がずっと追い求めているのが『スイ』という人だってこと。母もそれを知っていて、いつも揉めていた。実際のところ『スイさん』が誰かは知らなかったようだが。
きっと亡くなる直前まで、揉めた。
参ったな……薙、俺どうしたらいいのか分からないよ。
「拓人おはよう! 大丈夫か。顔色悪いぞ」
「あっああ……」
「この前の日曜日、急に帰ってしまって、あれから少し変だぞ」
「……なんでもないよ」
「そっか、ならいいんだ。オレさ……実は友達ってちゃんと作ったことなくてさ、勝手がわからないんだ」
「そうなのか。でもなんで友達作らなかった? 」
「……また裏切られそうでさ」
遠くを見つめながら、薙はそう言った。
そんな薙を裏切るかもしれないのが、この俺だ。
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開眼供養の依頼で出かけた帰りに、思い切って『建海寺』に立ち寄ってみた。今日は流が寺を見てくれているので、少しなら寄り道しても大丈夫だろう。
「翠!! 珍しいな。お前からここに来てくれるなんて」
「達哉……久しぶりだね」
この寺には、一時期全く足を踏み入れることはなかった。
一年以上に渡り流を盾に克哉くんに嬲られ、最後は凌辱されそうになった過去を簡単に消すことは出来なかった。結局、危ない所で……達哉が見つけてくれて、克哉くんは両親から勘当された。ご両親は世間体もあって勘当という形を取ったら、実は……僕がたぶらかしたと恨んでいたようだった。
僕はもうあれ以上の恨みを買うのが耐え切れず、ここには一切近寄らなくなった。そして、この地での生活が耐え切れず、結婚して東京に出て、北鎌倉から姿を消した。
数年前に達哉が家督を継いで、両親が一山超えた土地のマンションへ隠居したので、やっとこんな風に僕も足を踏み入れられるようになったのだ。
達哉とはあんなことがあった後も、友好な関係を保っていた。ひとえに彼の人柄のお陰だろう。
「どうした? 何か心配ごとか。お前がわざわざ来るなんて」
「あの……克哉くんのことを聞きたくて」
僕の口からその名が出ると思っていなかったようで、達哉がギョッと目を剥いた。
あとがき(不要な方はスルーしてください)
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翠の過去は『忍ぶれど……』https://estar.jp/novels/25570850→『色は匂へど……』https://estar.jp/novels/25628445にて、末の弟・丈の誕生から丁寧に追っております。克也が犯した過去の事件もそちらで書いております。
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