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聖夜を迎えよう15

「洋、早く着替えておいで」 「あぁ」  洋は涼くんから渡されたサンタの真っ赤な衣装を持って、ベッドルームへ消えて行った。離れのリフォームは私と洋がふたりだけで気兼ねなく過ごせるように、解放感のある作りになっている。だから寝室といっても仕切りはなく、リビングからも覗けてしまう仕様になっていた。  いくら安志くんと涼くんカップルと言えども、洋の着替えを見せるわけにはいかない。  彼らも意識しているようで、ふたりともソファに座ったものの、そわそわと視線を泳がせているではないか。 「珈琲でも?」 「ありがとうございます。僕、寝起きなんでお腹もペコペコで。えっと……これは催促じゃないですが」    さては……涼くんは眠ったまま車に乗せられたのか。確かに髪の毛も乱れ、いかにも『寝起きです』といった有様だ。恋人達にとって昨夜がどんな意味を持つひと時だったかは、私も知っている。だから何も突っ込まない。  しかし、若さ溢れる涼くんの素直さに和むな。洋とよく似た顔で、全く違い表情をする。洋も何もなければこんな風に明るく育っていたのでは……と思うと、少し切なくなる。 「今日はフレンチトーストにしようと思ったが、よかったら一緒に」 「えっ、いいんですか。やった!」    涼くんに言ったつもりが、安志くんまでワクワクした顔をしているじゃないか。でもまぁ……これで気が逸れるのなら良しとしよう。 「丈さんは凄いですね、凝った料理も作れて。俺なんてトーストと目玉焼きとかシンプルなものしか出来なくて」 「まぁ洋と暮らすようになって研究したのだ」 「なるほど、そういえば洋は昔から少し凝った料理をよく知っていたもんな。洋のお母さんが詳しかったから」 「……なるほど、そうか」  確かに洋は料理の腕はからきし駄目だが、料理名はよく覚えていて、ローストビーフが食べたいとか英国風のスコーンが食べたいとか……クリスマスはシュトーレンだよなとか、難しいリクエストだけはしてくれる。  私はもともと研究するのが好きなので、洋が望むものなら、何でも調べてマスターした。お陰ですっかり料理が上手くなったようだ。    すべては洋のため。  洋の笑顔が見たくて努力したことだ。    フレンチトーストの材料は昨夜のうちに準備しておいた。バターをひいたフライパンで焼き出すと、甘く香ばしいバニラビーンズの香りが部屋中に漂って食欲をそそった。私も流石に腹が空いていたようだ。 「うわっ、すごく美味しそう!」 「洋っ……」  すぐ横で声がした。振り向けばサンタクロースの真っ赤な衣装を着た洋が立っていた。思わずフライ返しを落としそうになるほど、魅惑的だった。 「どうした? 丈」  明るい笑顔の洋につられて、私も微笑みを返した。 「その衣装……涼くんのは可愛い感じだったが、洋が着ると……」  衣装は男物で少し大きめだったが、衣裳の中で、ほっそりとした肢体が泳いでいるのが、妙に色気があった。 「似合わないか」 「いや、すごく色っぽいな」  耳元で囁いてやると、洋は途端に頬を赤くした。すぐ赤くなるところは最初から変わっていない。色白だから目立つのか。    つい……綺麗な色に染まっていく頬を見つめてしまう。 「丈はよくもまぁ……そんなことを朝から抜け抜けと」 「早く脱がしたくなるよ。今日はその恰好で夜までいてくれ」 「はぁ……また変なこと考えただろう? いやらしいな!」  キッチンで小突き合っていると、涼くんの遠慮しがちな声が届いた。 「あのぉぉぉ、イチャつくのもいいんですが、焦げてます……」 ****  多少焦げてしまったが、全体的に良く出来たと思う。焼きたてのフレンチトーストに蜂蜜とラズベリーを飾って、クリスマスらしくデコレーションしてみた。皆、喜んでくれたので、私も上機嫌になっていた。 「さて、いい加減に母屋に手伝いに行かないと怒られるぞ」 「あっそうだね。じゃあ安志と涼も一緒に行こう」 「あっ洋兄さん。ちょっと待って」  涼くんは持ってきた大きな旅行鞄から、クリスマスラッピングの小さな袋を洋に手渡した。 「なに? これ」 「えっとね……洋兄さんに必要なものかも? 後で丈さんと楽しんでみて」 「ふーん、なんだろう」  洋がその場でラッピングを開けようとしたら、安志くんが慌てて止めた。 「駄目だ! あとで見ろ! 夜になったら開けてもいいぞ」 「勿体ぶってなんだよ。でも二人ともありがとう。嬉しいよ。俺からもあるよ。これをどうぞ」  洋……いつに間に準備したんだ? 聞いてないぞ。 「ふふっ、俺のも後で開けてね。そうだな~同じく夜になったら開けてもいいよ」  なんとなく涼くんと洋の含み笑いが気になった。洋はたまにとんでもない行動に出るから……あれもびっくりするようなものだったりするのか。 「丈にもちゃんとあるよ。でも夜に渡すから、それまでいい子で待っていて!」 「おいおい。私をお子様扱いか」 「だって今日は俺がサンタクロースなんだろ? 丈のご所望だったじゃないか」 「コイツ!」 「ふふっ、本当に洋兄さんの所は熱々だな~」 「あっそういう涼こそ、またこんな所につけられて……」 「えっあぁ? あーーーーー!恥ずかしい! もう安志さんのせいだ。揶揄われるよな~これ」  サンタクロース姿の洋と涼くん、双子のような従兄弟たち。  こんな光景自体が……もうすでにギフトだ。  私にとって何よりの贈り物は、洋……君だよ。  ありがとう。  心の中で、そっと礼を告げた。  

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