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聖夜を迎えよう17
涼と洋……二人のサンタは、楽しそうに母屋に向かって歩き出した。
俺も丈さんと並んで、その後ろをついていく。
それにしても月影寺の広大な庭のほとんどは竹林なので、冬でも青々しさを保っている。竹の緑色とサンタクロースの衣装の赤の対比がいいな。これはこれで和風クリスマスといった雰囲気で、気分が盛り上がるぜ。
「丈さん、竹っていうのは当たり前ですが……冬でも青いままなんですね」
「そうだ。竹というのは一年中青々としているから、いつまでも若々しくおめでたいと捉えられ『松竹梅』として名を連ねているのだよ」
「へぇ、丈さんは物知りですね」
「いや……全部、翠兄さんからの受け売りだがな」
「それにしても、いいクリスマスになりそうですね」
「あぁ」
さっきから前を歩く涼のヒップがキュッと引き締まって、ソソラレル。サンタの衣装は大柄な男性が着たものだったようで、華奢な涼にはぶかぶかだ。それがまたいいんだよな~涼の躰が衣装の中で弾んでいるのがよく分かってさ。
あの小尻を昨夜は沢山揉んでやった。そしてその付け根の際どい部分に沢山の痕を散らしてしまった。モデルをやっている涼の躰に、普段ならそんなことは許されない。でも正月明けまでずっと休みなんて聞いたら、これはつけるしかないだろうと、血が騒いで興奮してしまった。
揺れるヒップを眺めながら、つい昨夜のことを思い出してしまった。
「安志くん……おいっ鼻の下が伸びているぞ、あんまり私の洋のことを見ないで欲しいのだが」
「はっ?」
やれやれ……全く丈さんは何を言い出すのかと思ったら。嫉妬深い男を持つと大変だな。そういう丈さんの視線も、涼のキュッとあがった小尻に夢中なんじゃないか。
「ははっ、洋のは見てませんよ。あれ? そういう丈さんこそ、俺の涼の尻をそんなに見つめないでくださいよ」
「はっ、何を言っている? 涼くんの尻もいいが、洋のは格別だ」
「またまた。涼のは若い分ピチピチでっせ!」
「むっ、いやまだまだだ。まだ青いだろう、十代なんだから。それに比べて洋の尻の色っぽいこと。滑らかに程よく肉付いて、ほっそりとしていいだろう」
「うー、洋のは確かに色気があるけど、涼は若さです。どっちがキュッとしているかっていったら、やっぱり涼でしょう」
やべっ……声がどんどん大きくなってしまう。
恐る恐る顔をあげると冷たく目を細めた洋と、キョトンとした表情の涼と目があってしまった。
「や……これは、そのっ」
「安志~お前はまた! 全部聞こえたぞ! いやらしい奴だ。後ろから俺たちの尻を見比べるなんて」
「ちっ違う! これは丈さんが言い出したんだ」
洋に責められると弱いんだよ~俺。
隣で涼は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「丈、お前もなのか」
「ははっ」
洋は丈さんも責め出した。その時母屋から豪快な笑い声がしたので探すと、庭に面した居間から、流さんが大きな脚立に乗って俺たちを見ていた。
「はははっ~お前たち全部筒抜けだぞ! それからな、一番美しい尻は翠兄さんに決まってる」
「なっ、何を」
洋は流さんには負けてしまうようで、動揺していた。
「流さん駄目ですよ。薙くんもいるのに! いい大人がそんな会話をしたら」
「おっ、そうだったな。悪い悪い。でもあとで尻談義しような。サンタクロースくん達ようこそ! 月影寺にふさわしい美形サンタよ」
母屋の居間に入ると、中央に大きなツリーが飾ってあった。枯れ枝を組んで赤や白の紐や水引などで見事に飾られていた。へぇ……これが流さんの作品ってやつか。洋からよく流さんの芸術的センスについては聞いていたが、こんな大作も作れるなんて、すごい。
俺達の到着とほぼ同時に翠さんの親友の達哉さんと拓人くんもやってきた。みんなこの前の事件をきっかけに顔を合わせたばかりだ。
居間では涼が改めて翠さんや薙くんに挨拶をしていた。
「はじめまして! 薙です」
「涼です」
「知っています。モデルされてますよね。雑誌でよく見てます」
「うわっ……恥ずかしいや」
そうか涼と薙くんは初対面だったな。俺はこの前の騒動の時に会ったばかりだが。
最初は翠さんとあまりに似た容姿に驚いたが、中身はイマドキの中学生っぽいとも思った。でも少し雰囲気が落ち着いたのか。洋からは結構若くてズバズバものを言うとは聞いていたが、今は思慮深さもいくらか感じられた。
まぁあんな大事件に遭遇したら……人は嫌でも大人になるもんな。
「それにしても和風ツリーいいですね」
「おお、サンキュ!このまま正月の飾りにするつもりだ」
「なるほど」
「さてと飾りつけもこの鶴を飾れば終わりだ。みんな手伝ってくれ」
「はい!」
翠さんと薙くんが、折鶴を皆に手渡していった。
紅白の鶴の折り紙は、とても洗練されていた。
「みんな来てくれてありがとう。この鶴は僕たち親子で願いを込めて折ったんだ。だから……皆の手で飾りつけて欲しい。羽ばたくように……僕は皆がいてくれるから、ひとりではないから、大丈夫だ。本当に心配ばかりかけたが……こうやって皆が集まってくれ、前へ進む勇気をもらえるよ」
翠さんの言葉が胸に響く。洋に頼まれてたまたま一緒にいた刑事と駆けつけることが出来て本当に良かった。間に合ってよかった。
洋の役に立ったことも、被害を最小に留められたことも嬉しかった。今度は後悔はない。
「何より安志くん、ありがとう。君がすべての流れを変えるきっかけを作ってくれた。洋くんに渡したキーホルダーの存在がなかったら、今頃、僕は……どうなっていたか。そして刑事さんを連れて来てくれたから事が一気に進んだ。一発で終わらせることが出来たんだ」
皆の前で翠さんに手放しで褒められ、こそばゆい気持ちになった。
「いや……そんな。たまたまで、どれも偶然だったんです」
「この世で起こることはすべて必然であり、偶然はひとつもないと僕は思っているよ」
「翠さん、ありがとうございます」
皆で鶴を飾り付けていると、涼が嬉しそうに傍にやってきた。
「It's not a coincidence! 」
突然の英語にたじろいだ。流石は帰国子女だな。自然と出て来るんだから。
「なに?」
「偶然じゃないよね、僕たちの出逢いも必然だった」
そう言ってウインクしていった。
俺の恋人は天使だ。そんな風に思ってしまう瞬間だ!
「よし、完成だ」
見上げれば枝に紅白の鶴が沢山止まっているように見えた。
みんなカップルのように見えてくる。
幸せなツリーの完成だ。
月影寺に集まった幸せなカップル。親子。友人同士。
人と人のつながりを、皆で噛みしめながらツリーを見上げた。
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