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安志&涼編 『僕の決意』14

   俺の横で安らかな寝息を立てるRyoを背後から見つめていると、盛大な溜息が自然に漏れた。   「はぁ……これって拷問だな」  さっきRyoをこの壁に押し付けてした強引なキスのことを反芻すると、やっぱり深い溜息が漏れてしまう。  あんなこと仕出かした俺と同じベッドで寝るなんて……お前、いい人過ぎる。いや、そうじゃなくて、それだけ俺のことを信頼してくれているんだと思うと、申し訳なさが募る。  あんな邪な気持ちでRyoに触れたことを、ひたすら申し訳なく感じた。  でもキスして分かったことがある。  俺……やっぱりRyoが好きだった。  そしてキスし終えて、決定打を浴びた。  俺……失恋した。  Ryoには案じていたとおり、日本で恋人が出来ていた。しかも相手はまさかの男……馬鹿正直で真っすぐなRyoは、素直にそれを認めてしまった。  そんな大事なことを簡単に話すなんて……俺が言いふらしたらどうするつもりなんだよ。でもフラれてしまったが、友人として信頼されるのは嬉しかった。  あーそれにしても、やっぱりRyoは可愛い。  無防備に眠る横顔を見つめて、またまた盛大な溜息だ。  栗色の髪が、柔らかそうな頬にかかり艶めかしい。  長い睫毛なんだな、男のくせに。  東洋人のすべすべした肌に触れてみたい。  髭なんて見当たらないな。  それに鼻が高すぎず低すぎず絶妙だ。  キスするとき邪魔にならないよな。  唇が少しだけ開いているのも……やっぱり……ヤバイ。  可愛い。  キュートだ。  キスしたくなる。    ズキッ  俺が邪な考えを少しでも持とうものなら、さっき蹴られた股間が痛みだす。  イテテっ、あぁもう分かったよ。もう諦めるって!  Lisaの勧め通りRyoにもう一度会ったのは間違いではなかった。自分の気持ちに正直にぶつかっての玉砕。  これ以上しつこくつきまとうなんてことしない……見事にフラれたのだから。俺は潔いスポーツマンだ、それは約束する。  見納めかな。   こんなRyoの姿を独占するのも……これが最後さ。 ****  翌朝早く、俺は空港へ行くためにRyoの家を出た。律儀なRyoは一緒に家を出て、駅の改札口まで送ってくれた。 「じゃあな。昨日は久しぶりに会えて楽しかったよ。その、これからも友人としてよろしくな! 僕のハイスクール時代の一番の友人だよ。Billyはさ!」 「Ryo……ありがとうな。あんなことしてごめん。でも友人としてのハグならいいよな」 「え?」  別れるのが寂しくて、少し驚いて顔をあげたRyoのことを思いっきり両手で抱きしめ、おでこに軽いキスを落とした。Ryoはビクッと身体を揺らして、すぐに身を引いた。 「ばっ、バカ! ここをどこだと思ってんだ! 日本だぞ! 日本っ!」  Ryoはキョロキョロと辺りを見回して、耳まで真っ赤に染めていた。 「なんだよ。この程度のこと、向こうじゃ普通だったろう? 」 「はぁBillyは……自分の身を大事にしろよっ」  そう言われて、昨日の金的を思い出し身震いした。 「わっ! 勘弁! もう一度やられたら男として……終わる」 「だろっ」 「とにかく帰国するよ。Lisaが早く帰って来いって騒いでる」 「くくっ、Lisaによろしく、BillyとLisaはいいコンビだよ。お似合いだ」 「あぁ、そうかもな。アイツがそもそもRyoに会って白黒はっきりさせて来いって、けしかけてさ。昨日のこと、ほんと悪かったな。N.Y.に帰国したらLisaと一緒に会おうな! また!」 「はは……Lisaはすごいな。うん。僕の両親はずっとそっちだし行くよ。その時は絶対会おう!」  お互いに笑いあった。 「Bye!Ryo!」 「Bye for now!(またな)」  ハイスクール時代と変わらぬ挨拶で別れた。    親指を上に向け「いいね!」とジェスチャーし、微笑みあった。  春らしく……爽やかな別れを迎えた。  ****  Ryoと別れてしんみりとホームに立っていると、康太から連絡が入った。 (Billy、おはよう。今どこ?) (あぁ、空港行きの電車の中) (そうか……じゃあ、帰りの便は予定通りなんだな) (まぁな。残念ながら) (……見送りにいくよ) (Thank you!)    空港に律儀に俺の二人目の日本人の友人が見送りに来てくれた。 「結局……Billyの恋は玉砕ってわけ?」 「え? 何でそれ知って?」 「昨日のパーティーでの態度を見ていたら分かるさ。お前、ほんと分かりやすいもんな。でもあんな綺麗な子なら、男でも好きになっちゃうかもな」 「なっ駄目だぞ! 手は出すなよっ! 大事な友人だ。それにアイツにはちゃんと恋人がいるんだから」 「へぇ……そうなんだ」 「いずれにせよ、康太、本当にありがとうな。お前の家、豪邸ですごかったし、世話になった」 「いや、また大学でよろしくな」  離陸する飛行機の窓からはTokyoの景色がよく見えた。  さよならRyoの国。  もう来ない。  だから失恋した気持ちは、ここに置いて行こう。  「Be happy.」  ****  Billyを見送って、ほっと一息ついた。  あの馬鹿っ……あんな所で……  でも爽やかな別れ方が出来てよかった。  さぁ戻ろう。  安志さんの元へ。  早く、早く会いたい!

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