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解き放て 2
洋……とうとう明日、ソウルへ旅立つのか。
明日から一か月もの間、洋がすぐ傍にいないのは寂しいものだ。
Kaiと優也くんの手伝いをするために行く。迷う心の背中を押したのは私なのに、今になって少し後悔しているなんてな。
隠し通せない気持ちを洋に素直に伝えると、洋の方も寂しいと言ってくれた。そして自らキスして胸に飛び込んできてくれた。珍しく素直に甘える洋が可愛くて溜まらなくなり、そのままベッドに押し倒し、結局また執拗に抱いてしまった。
今、洋は私の横で疲れ果て……寝息を立て眠っている。
(洋……悪かったな)
何度も何度も洋を絶頂に導き、感じまくった躰に、私のものを挿入し散々に突いて、休む暇なく追いつめるように抱き潰してしまった。そのまま気絶するように眠りについた洋に、心の中で深く詫びた。
それから剥き出しの肩が隠れるよう、羽毛布団をふわっとかけてやった。月明かりを浴びる白い首筋には、私が辿った痕が点々とついていた。
しまった。つい制御できずにこんな上の位置にまでつけてしまった。これは明日になったら怒られるだろう。本当に……私は節操無しだ。際限なく洋を求めてしまうのは、彼を初めて抱いてからの五年間……いやもうすぐ六年か……何も変わっていない。
あのテラスハウスで一人でのうのうと暮らしていたのは、もう遠い昔だ。
あの頃の私は、とっかえひっかえ言い寄ってくる女を抱いていた。長続きしたことなどない。女と朝まで同じベッドで過ごすなんて窮屈で面倒に感じていた最低な男だったな。
それがどうだ。今はこの様だ。
片時も離したくない程、洋を愛している。
洋は……私が初めて抱いた男だ。
もう生涯……洋以外の人間とセックスすることはないだろう。そう言い切れる程の自信がある。
だが同時に、このままでは駄目だと思う。
洋は籠の中の鳥ではないのだから、もっと大空を自由に羽ばたかないといけないのだ。
中学生の頃から私と出逢うまで、ずっと義父により見えない籠の中で怯えて過ごしてきた洋にとっては、今がまさのその時なのだろう。
そう思うのに……最近の洋を見ていると一抹の不安が過る。
洋には女性との経験がない。前にも洋に聞いたことがあるが、キス以上のことをしたことがないそうだ。
最近の洋は28歳という年齢になったこともあり、出逢った頃のような華奢な少年、少女めいた儚い美しさは少し影を潜め、その分、大人の艶めいた色気を纏しだしている。
その色気は……壮絶なまでの男の色香であって、ますます変な奴に狙われそうで心配になってしまうのと同時に、こんなにも艶めいた男がいたら、女だって放って置かないのではと思うのだ。
私に抱かれ続け……抱かれる側しか経験しないで……洋には不満はないのだろうか。男の性を持って生まれたからには、女性を抱いてみたいという欲求はないのか。
これは……怖くて直接聞けないことだ。
私たちは互いに相手自身に惹かれて結ばれた。男とか女とか、同性とか異性とかそういう次元を超え……相手そのものに魅了されている。
だからこその不安だ。
じっと見つめていると、眠っているはずの洋が苦し気に眉根を寄せた。
(苦しいのか。怖いのか)
私は知っている。
洋がまだ夢の中では時折、過去に苦しめられていることを。
そんな時、私は洋の手を取り指と指を一本一本絡ませて、それから温かな愛情をこめたキスをして、優しく胸に深く抱いてやる。
恐ろしい体験は、洋の躰の奥底にまだ刻まれている。
現実世界でその原因を排除しても、刻まれた記憶はそう簡単には消えてくれないのを知っている。
もどかしい。こうやって抱きしめることしか私に出来ることがないのか。
だがこれは洋自身で少しづつ乗り越えていかないといけないものなのだ。だからいつまでもこの寺で、洋を守るように暮らしていくだけでは駄目なのだ。
洋が独り立ちし、自分にもっと自信をつけて、一歩一歩階段を上がるように乗り越えていくものなのだ。
じっと見つめていると、洋の目から一筋の涙が流れていく。
(この涙の意味を知りたい)
応援するからサポートするから……そんな思いを込めて、もう一度洋を抱きしめてやる。
ソウルで頑張って来い。
****
旅立ちの朝。
たった一か月だというのに、暫しの別れを惜しむように……俺達は昨夜、深く深く抱き合った。
それから見た怖い夢は、いつしか温かな日差しの中を丈と歩く夢に変わっていった。だからなのか、身体中にエネルギーが満ちたような気分だった。
「洋、気を付けて行ってこい」
「うん、丈も一度位はソウルに来てくれるのだろう?」
「あぁもちろんだ。どうも気になってな。来週末には行けるかもしれない。でも洋はもういい加減、こういう風に心配されるのは嫌だろうに……悪いな」
「とんでもない、嫌じゃないよ。俺もソウルで丈に会いたい、だから嬉しいよ」
「そうか、よかった」
「待っているよ」
「あぁ」
次に丈と会う時には、俺は少し変わっているかもしれない。何故だかそんな気がした。
丈と出逢ってから自分の意思で外国に行くのは、あのN.Y以来か。あの時は解決する問題のためだったが、今回は違う。
Kaiと優也さんの手伝いをしにいく。
誰かの役に立てるのが、とても嬉しい。
お世話になった人への恩返しなんて大袈裟だが、仕事で俺自身が求められるのは嬉しいものだ。
「じゃあ、行ってきます」
「あぁソウルで頑張ってこい。応援しているから……行って来い」
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